海外コメンタリー

なぜDNAを記憶媒体にするのか--200MBに到達したマイクロソフトらが次に目指すもの

Alison DeNisco (TechRepublic) 翻訳校正: 村上雅章 野崎裕子

2016-08-24 06:00

 膨大な量の書籍や動画、芸術作品が、鉛筆の先ほどの量のDNA鎖に保存されるなんて想像できるだろうか。ワシントン大学の研究者らとMicrosoftは7月、SFに登場するようなこのコンセプトを現実化し、分子に保存するデータの量としては新記録となる200Mバイトの保存に成功した。


試験管の先端におぼろげに見えているDNA(ピンク色の部分)だけで、ベーシックなスマートフォン600台分以上に格納されている動画や画像、電子メールなどのデジタルデータすべて(10テラバイト相当)を保存できる。
提供:Tara Brown Photography/ワシントン大学

 研究者らは、デジタル化された芸術作品(その中にはインディーロックバンドOK GoのHDミュージックビデオも含まれている)や、Project Gutenbergの人気書籍上位100冊、100種類以上の言語で記された「世界人権宣言」のすべてをDNA鎖に保存した。このような規模でのデータ保存は他に例を見ない。

 ワシントン大学のコンピュータ科学およびエンジニアリングの准教授であり、同プロジェクトにおける大学側の主責任者を務めるLuis Henrique Ceze氏は「これは、コンピュータの利用に新たな道を開く可能性を秘めている」「自然界から知恵を借りることで、単なるシリコンでできたコンピュータよりも優れたコンピュータを作り出せる可能性が示された」と述べている。

 Ceze氏の本職はコンピュータアーキテクトであり、コンピュータシステム利用の新たな、そしてより効率的な方法を研究している。同氏のチームは数年前、DNAストレージと、それに関連する前人未踏の2つのコンセプトの研究に着手した。1つ目のコンセプトはランダムアクセス能力だ。大量のデータが保存されている場合、すべてのデータを読み込まずに一部だけを読み出すにはどうすればよいのかということだ。2つ目のコンセプトは、DNAストレージの実用化に関するものだ。すなわち、アーカイブ担当者がデータを保存した後、再びそのデータにアクセスできるようなエンドツーエンドのシステムは、どのようにすれば実現できるのかということだ。

 Ceze氏がランダムアクセスの可能性を見出した後、Microsoftがこの研究に参加した。そしてMicrosoftは2015年に、ワシントン大学のDNAストレージに特化した研究所に対して資金を提供した。

 同プロジェクトにおけるMicrosoft側の主任研究者を務めるKarin Strauss氏は「われわれはDNA情報の読み取り方を知っており、その読み取りに対する興味を今後も抱き続けるだろう。というのも、DNAは生物が利用しているストレージ素材でもあるためだ」と述べるとともに、「VHSテープやフロッピーディスクといった時代遅れのメディアによって引き起こされる問題は、DNAでは起こり得ないだろう」と述べている。

 研究者らはDNAの記録密度や耐久性に魅力を感じていた。合成したDNAをカプセル化し、摂氏10度の環境に保っておけば2000年の保存に耐えられるという研究がある。しかし科学者らは、70万年前の化石のDNA配列を読み取ることにも成功しているため、ストレージ分野の可能性ははるかに大きいとStrauss氏は付け加えている。

 Ceze氏によると、このような大きな進歩により、「今後10年以内にこの技術が利用されるようになっていることを否定する根拠は1つもない」という。

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