カナダのメディア学者であるMarshall McLuhanはその主著「メディア論」の中で、新しい技術が人間と社会にもたらす影響のプロセスについて以下のように記している。
われわれは、新しい技術とメディアによって、自分自身を増幅し拡張する。そういうメディアや技術は、防腐処理などまったくお構いなしに、社会という身体に加えられる大規模な集団的な外科手術のようなものだ。
もし手術が必要ならば、手術中に組織全体がどうしても影響を受ける。このことは考慮しなければならないことだ。新しい技術でもって社会に手術を施すとき、一番影響を受けるのは切開された部分ではないからである。切開によって衝撃を受ける個所は麻痺する。変化を受けるのは組織全体なのだ。
ラジオの効果は視覚に及び、写真の効果は聴覚に及ぶ。新しい衝撃はどれもが感覚全体の間の比率を変化させる。

メディア論の泰斗であるMarshall McLuhanの主著「メディア論」(みすず書房)。「メディアはメッセージである」という有名なテーゼに始まり、「人間の身体および感覚の拡張としてのメディア」を、「テレビ」「貨幣」「衣服」「自動車」などさまざまなトピックを例に論じている(Amazon提供)
Googleは検索によって情報へのアクセスを迅速化したわけではなく、情報産業の概念、形態、規模を変えた。Amazonは手軽に買い物を楽しめるようにしたわけではなく、商品購入に際しての決断要因を変えた。
AppleはPCに匹敵する便利な電話を開発したわけでなく、人間の思考と行動のパターン、そして身振りや手振りまでをも変えたのだ。
<後編に続く>- 高橋幸治
- 編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。「エディターシップの可能性」を探求するミーティングメディア「Editors' Lounge」主宰。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。