スロバキアに本社を持つESET(イーセット)が、日本の法人向けセキュリティ市場で存在感を高めている。同社は、1987年に最初のウイルス対策ソフトを開発。1992年には法人化して事業を本格化。現在、全世界180カ国で1億人以上が利用している。日本国内では、2003年からキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)が取り扱いを開始し、着実にシェアを拡大。現在、国内第4位のポジションにある。
ここにきて、中堅中小企業だけに留まらず、大手企業向けの展開を加速。シェア拡大に弾みをつける考えだ。ESET ASIAの最高執行責任者(COO)であるLukas Raska(ルーカス・ラスカ)氏と、セールスディレクターのParvinder Walia(パヴィンダー・ワリア)氏に日本アジア太平洋での取り組みについて聞いた。
サブディストリビューターを増加
――ESETにおいて、日本の市場はどんな意味を持つのか。
Raska 日本の市場は、非常にダイナミックな市場だと捉えている。IDCの調査でも明確なようにエンドポイントセキュリティ市場で世界全体に占めるアジア太平洋市場の構成比は約22%。非常に重要な地域であることがわかる。そして、アジア太平洋市場のうち日本の市場が50%を占めている。
ESET ASIA COO Lukas Raska氏
これは国別にみれば、米国に次いで2番目の市場規模である。当社のビジネスにおいてもそれは同様であり、だからこそ日本の市場を重視している。いまの日本における位置付けはいいところにある。日本アジア太平洋では第4位であり、3位との差は徐々に縮まっている。全世界では5位であり、日本アジア太平洋の方が順位が高い。
日本では、販売代理店に恵まれている点が大きい。約13年前からキヤノンITSと組むことで日本でも高い実績を挙げられている。ESETは、現地通貨ベースでアジア太平洋で顕著な成長を遂げており、日本でもシェアを伸ばすことができた。
この1年でESETは東京に直接的な拠点を開設した。そこに“ビジネス開発チーム”を設置している。これによって、日本での事業をさらに加速したい。
――ビジネス開発チームの役割は何か。
Walia ビジネス開発チームは、ESETが重要な市場で設置し始めているもので、日本のほかにもインドや中国にも設置している。日本の拠点は2人体制でスタートしたが、今後、増やすことも考えている。
これまで、ESETはキヤノンITSを通じて日本の市場の情報を集めていたが、ESET自らも、より日本市場への理解を深め、日本が求めるソリューションについても製品に反映するためには自らが出て行く必要があると考えた。
Raska われわれは、日本の市場ではさらに成長していきたいと考えている。われわれの強みは、中堅中小企業の市場で発揮されてきたが、大手企業向け市場ではまだやり切れていないところがある。大手企業に対して、付加価値を提供できるシステムインテグレーターやリセラーとパートナーシップを組むことで新たな市場にも踏み出していく。
――キヤノンITSとの関係が変化することを意味するのか。
Walia マスターディストリビューターであるキヤノンITSとの関係には変化がない。むしろ、スロバキア本社との連携が強化されることになるだろう。だが、その一方で、新たな製品や新たな市場開拓のためには、サブディストリビューターとして、システムインテグレーターやリセラーなどとの連携をしていく必要もある。質の高いパートナーをキヤノンITSとともに発掘したいと考えている。これによって、日本におけるシェアをさらに高めていきたいと考えている。
Raska 手を組みたいのは、優秀なシステムイングレーターやリセラーであり、誰でもいいから参加してほしいというわけではない。日本の市場について、緻密に分析し、地理的にどこが弱いのか、あるいは政府系や医療系など、どこの分野が弱いのかということを分析し、われわれが弱いところに長けた企業とパートナーを組んでいくことになる。
――日本のビジネス開発チームの役割は他国とは異なるのか。
Walia そこに違いはない。どの国でも、その国に精通したパートナーと連携しており、その点にも違いはない。だが、日本のチームは、効率的な働き方をしており、セキュリティ市場に対しての経験を積んでいる。
また、日本の文化やビジネスの慣習も深く理解しており、パートナービジネスにも精通している。日本の市場は、ビジネスの透明性があり、魅力的な製品を受け入れ、価値の提案ができ、サポートもしっかりと提供できる環境が整っている。
――ESETにおける課題は何か。
Raska 2015年はエンドポイントセキュリティ市場全体が縮小した。これは、PC市場全体が縮小したことによるものであり、ESETの課題と言うよりはエンドポイントセキュリティ市場全体の課題である。ESETにとっても、2015年度は厳しい年であったが、結果として、ESETはシェアを伸ばしている。
そうした市場環境にはあるが、われわれは楽観視している部分がある。というのも、ESETのシェアはまだ低い。言い換えれば、まだ伸び代があるということ。そして、新たな製品を続々と投入しており、そこからも新たな収益を得ることができる。
昨年、法人向けセキュリティ対策ソフトウェア「ESET Endpoint Protection v6」を投入し、大手企業に向けた製品も用意した。2016年には、新たにデータ暗号化製品の「DESlock Plus Pro」、ネットバンキングなどに活用するための要素認証ソリューションの提供を開始しており、これがESETの成長につながる。