平成28年版つまり2016年度の「情報通信白書」が公開された。今年の特集のタイトルは「IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~」である。
一見してこのテーマは何か新しい領域にフォーカスを当てたものに見える。しかし、実際に中身を紐解いてみたところ、IoT(モノのインターネット 、ビッグデータ、AI(人工知能)が単に新しい領域を形作るだけでなく、既存のICT(情報通信技術で扱われていること)にも影響し、この3つ自体も複雑に絡み合っていくような、現在のICT、そして情報化社会全体を裏から少しずつ変えていくような世界観を見ることができた。
このような状況下では、例えば企業が「IoTを推進する」と言った場合、どの事業やどのICTに適用すればいいのかを考えていく必要がある。今回の「情報通信白書」ではそれに対して明確な答えは与えていないが、さまざまな実例やデータを元に何に着手するべきかの種を与えてくれる。
また、近年全く新しい形で現れたAIについて、そもそもどういったもので何ができる可能性があるのかということについて述べている。本記事では、まず既に普及したスマートフォンやクラウドプラットフォームなどを中心に、消費者、公共分野、訪日外国人の各領域についてICT利用の現在についてまとめることで、IoTなどの新潮流を理解する足がかりにする。
ICTの経済的価値
IoTやビッグデータには、既存のICTによって提供されてきたサービスの中に組み込まれながら、変化をもたらしていく側面がある。その実際について見る前にまず、消費者向けICTサービスの現状についてまとめる。まず企業側、消費者側双方についてのICTの価値について概観する。
以下の図では、企業側のICTを価値を既存統計でとらえられる価値とする一方で、消費者側では経済成長に加えて非貨幣的価値が増大するとしてまとめている。

ICTの貢献の多様性 出典:「平成28年版情報通信白書」(総務省)
企業側でのICTの貢献は、まず規模の経済性、ネットワーク効果などの経済性として現れる。次に、新しいビジネスモデルが可能になる。特に基本的な財やサービスを無料で提供した上で付加価値を有料化するフリーミアムがICTと関連性が深い。このように、基本的に最終的には経済成長に影響する。
一方、消費者側のICTの価値について考える際には、まずICT財・サービスがどのようなものかについて検討する必要がある。ICT財・サービスの特徴としては、複製コストがほぼゼロになる「デジタル化」、ムーアの法則などの「指数関数的性能の向上」、場所や時間にとらわれず情報を共有できる「ウェブ化(クラウド化)」が挙げられる。これらの特徴は既存の財・サービスとは異なるため、GDPに現れにくい。その代替として、以下に挙げるような非貨幣価値を導入する。
企業が現在提供するサービスや、ICT財・サービスの特徴から、消費者側におけるICTの貢献、効果、サービスを3つにまとめることができる。

社会経済の消費者側におけるICTの貢献、効果およびサービス 出典:「平成28年版情報通信白書」(総務省)