会社に入った時、社長からこういわれた。 「どの会社にも長所と短所がある。長くいると、残念ながらその短所に気付きにくくなる。だから入ったばかりのあなた達の目に留まることを教えてほしい。明日から、会社でいいなと思ったこと、そしておかしいなと思ったこと、両方をリストアップして、定期的に報告してほしい」
そういわれたので遠慮なく、良いところ、悪いところをリストアップしていった。 そこでこのグループウェアのことを知った。なぜ使用停止しないのか、できないのであれば、すぐに人材を投入してコピーする作業に入るべきだ。 誰も使っていないのに、お金を支払い続けているというのはあまりにも無駄。これをなんとかしませんかと報告した。
「その通りだね。じゃあぜひ、その仕事を君にやってもらいたい」ーー。私は少し驚いた。でもやるべきだと言ったのは自分だ。じゃあ、とその仕事を引き受けることにした。 結構な量なので、途中、心が折れそうにもなった。しかし、学生のアルバイトを助手につけてもらったので、がんばり抜いた。
きっかり3カ月後にデータの移行が完了した。晴れてこの「旧式モデル」を本格的に引退させることに成功した。 社長も同僚も喜んでくれた。 なんのことはない、皆がうっすらと気付いていた違和感に、しっかりと汗をかく役割を果たしただけのことである。
しかし、後になってよくわかった。これは外から入ってきたばかりの私だから、できた仕事だったのだ。
変革を拒む過去労働に対する評価
どこの会社でもそうした定型硬直を起こした亡霊を抱えている。そうした亡霊のゴーストバスターは、当の本人よりも外部から来た者の方がやりやすい。 定型硬直を起こした社員は、その仕組みに慣れ親しみ、恩恵も受けているので、それらを壊すことに抵抗もある。 何より問題なのは、改革により、これまでかけてきたコストが無駄になるような錯覚に陥ってしまうのだ。
例えるなら、 荷物を部屋から部屋に運ぶ仕事の際、その作業が終わるやいなや上司に 「時代は変わった。荷物をもとの部屋に戻してくれ」といわれるようなものだ。 これでやる気が出る社員がいたら不思議だ。
つまり、この業務に関わっていたものには「過去の自分の労働に対する評価」が既に刷り込まれている。そのものに残務処理をさせるのは難しい。
しかし、新人や転職組にはその業務に対する特別な思いはない。 だから改革は、外部の者の方がやりやすいのだ。
1億6000万円を売り上げた若手スタッフ
会社の業務は、最終的に必ず硬直する運命にある。わかりやすくその流れを明示してみよう。
- 業務の型を作る
- 型がルーティン化する
- 皆、それを疑わなくなる
- 時代が変わる
- 不具合が出始める
- 変革機会を失い、倒産の危機に
件の旅館業界も電気屋さんも今、5の中にいる。皆さんの会社にも必ず、5の状態の業務があるはずだ。どんな優れたビジネスモデルでも、必ずこのフローを通過すると思っておいたほうがいい。つまり、あらゆる業務は最初から、2のルーティン化の時に、「変革の準備」を工程にいれておかなければならないのだ。