エレベーターにIoTやAIを活用する未来
「つくらないITシステム」のイメージを少し膨らませるために、エレベーターを例に考えてみましょう。
エレベーターのカゴを制御するシステムを注意してみてみると、なかなか複雑そうです。私もいろいろな場面で、どのメーカーのどの機種が「より効率的に動いているのか」とか「間違って押した階数のキャンセル技」などを興味深く見ていますが、裏側がなかなか複雑なロジックで動いていることは想像に難くありません。限られたCPUとメモリで実装する複雑なカゴ制御プログラムは、恐らく職人技の域でしょう。
ところが、こんなエレベーターが出てきたら、状況は一変しそうです。
- エレベーターの待ちスペースに人感カメラがあって、どの階が何人くらい待っているのかの情報をクラウドに送信する
- クラウド側で画像を解析して、待っている人の人数や待ち時間を測定し、AIに情報を渡す
- さらにAIエンジンが各フロアの待ち状況から、どのような順番でどのカゴを停止させると効率が最大化されるか学習・計算し、カゴに指示を出す
- カゴはAIの指示に従って最適な経路で動く
AIで学習を進めさせれば、時間帯によって最適な動き方や待機位置などが分かるようになり、より輸送効率が上がると考えられます。筆者も11Fに住んでいるのに、いつも10Fにエレベーターが待機していることを不満に感じていましたが、AIでカゴのアルゴリズムが最適化されれば「筆者が出勤する時間だけ11Fに待機する」というようなことが実現できそうです(もちろん、それが全体の輸送効率最適につながれば、ですが……)。
さらに、将棋でもプロ棋士から「AIの打ち手は人間には想像できなかった」という感想がもれた様に、「ちょっと飛ばして沢山の人を乗せてから逆行してまた人を乗せる」といった「人間の直感には反するが全体でみると効率化される」といったアルゴリズムでは実現できないカゴの動きもでてきそうです。
いままでのカゴにはそれほど大きなコンピュータを積むことは現実的ではありませんでしたからこうしたことは絵空事でしたが、通信網やクラウドサービスの発達によって夢物語ではなくなりつつあります。現に上のような構成も、AWSとIoT基盤のSORACOM、Googleの機械学習システム「TensorFlow」、などを組み合わせれば実現できそうです。
もっと画像認識のレベルが上がってくれば、例えばベビーカー優先のエレベーターは、混雑時のみベビーカーが待っている階だけ止まるようにするとか、エレベーターに乗った人が指名手配犯だった場合、警察が到着するまでカゴが空かないようにして施設全体のセキュリティレベルを高めるなど(倫理的に許容されるかはおいておいて、技術的には)さまざまなアイデアが考えられます。