「クラウドや各種サービスを組み合わせることで、輸送効率を上げるという目的を達成したエレベーター」が現実になれば、エレベーターそのものの販売にも影響を与えそうです。エレベーターのカゴ自体は多少小さかったり、昇降スピードが少し遅かったりしても、全体の輸送効率が高ければそれ自体が競争力になり得ます。
こうしたことが現実になれば、今までのように「限られたメモリとCPUの制限下で職人技的な技術でカゴ制御プログラムを書くエンジニア」よりも、「クラウドやIoT、AIといったさまざまなコンポーネントを組み合わせて、目的のことをより早く、より効率よく解決できるエンジニア」の方が、ビジネスにプラスの影響を与えることになっていくだろうと想像できます。
システムの在り方
この例は少し極端かもしれませんが、社内のシステムにおいても同じ考え方が適用できます。
これまで社内のシステムは「作ることが当たり前」でした(優れたサービスなどが限定的であったため、仕方がなかったと考えます)。作ることが前提になるので「人が多く、コストがかかる割に、時間がかかり、迅速に対応できない」という構図が生まれるのです。コードを書く人なら誰でも知っている様に、ソフトウェアはすぐにはできあがりません。「IT部門の動きが遅くスピード感がない」のではなく「作る部門なのだから仕方がない」のです。しかし、会社全体でみるとスピードに対する要求は増していますから、相対的に遅く感じられIT部門がやり玉にあがってしまうのです。
「つくらないITシステム」とは、発想を転換して「優れた外部サービスを使っていき、目的のことをよりスピーディーに達成しましょう」というアイデアなのです。
「つくらない」vs「つくる」
筆者が「つくらない」と言っているのは、「何も作るな」「コードを書くな」と言っているわけではありません。「競争力の向上につながらないものはつくらない、という判断をする。何をつくり、何をつくらないのかを仕分けしましょう」ということです。
例えばB2Cの事業を展開している企業にとっては、ユーザー体験にすぐれたウェブアプリや思わず来店したくなるモバイルアプリのように、(既製品では競争力強化につながらないので)ユニークなものをつくらなくてはいけない」ことは大いにあり得ると思います。著者もこうした開発を否定している訳ではありません。
実際、当社でもAWSの運用を自動化する「Cloud Automator」というSaaSを自社で開発し続けています。これは、「同じAWSのインテグレーターであっても、運用自動化SaaSを持っている企業の方が競争力が増すことは間違いない」という考えの下で、社内でも使うものではあるが、きちんと作っていこう、と決めて作り続けています。
逆に顧客管理システムの様に、「それ自体が競争力にならない」ものは徹底的に使う、という判断をしています。われわれはエンジニアが8割を占める会社ですので、社内のシステムも自作しようと思えばできる環境にありました。それでも外部のクラウドサービスを使った方が良い、と判断したのです。
まとめ
ここまでで、「作らないITシステム」のコンセプト、そうした考え方が必要とされる背景、作らないITシステムで実現する未来のイメージを共有してきました。
次回以降は、当社が実際に実施している「クラウドの組み合わせによるつくらない社内ITシステムの実例」を紹介し、すぐに実践可能なアイデアを公開していきます。
- 大石 良
- 株式会社サーバーワークス 代表取締役。1973年新潟市生まれ 1996年 東北大学経済学部卒業 丸紅株式会社入社後、インターネット関連ビジネスの企画・営業に従事 。2000 年サーバーワークス設立、代表取締役に就任。 「クラウドで、世界をもっと、はらたきやすく」というビジョンを掲げ、企業の業務システムのクラウド移行に注力している。特技はAWS名物となっている「切腹プレゼン」。