研究現場から見たAI

アメーバから学ぶロボット開発--「振動」がAI研究を進化させる - (page 3)

松田雄馬

2016-10-13 07:00

 「結合問題」に関する代表的な研究成果の1つは、1990年にドイツの神経科学者ジンガーらが発表した、「動く棒」を用いた実験である。「動く棒」を見せた猫の一次視覚野を観察すると、同じ方向に棒が動く場合にはそれぞれの棒に対して反応するニューロンが同期して発火するのに対して、そうでない場合には、このような同期が起らなかった。

 こうした実例を皮切りに、単語を学習する際に、既に記憶として定着している単語を見ると海馬と鼻腔皮質に同期が確認できたり、「ムーニー・フェイス」(月の表面の影のような顔)と呼ばれるだまし絵のような絵を見た際に、「顔」を認識した瞬間に大脳視覚野のさまざまな部位で「ガンマ振動」が現れ、同期が確認されたりなど、われわれの脳は、知的処理を行ううえで、同期現象を巧みに利用していることがわかってきている。


「ムーニー・フェイス」(月の表面の影のような顔)マイコード ウェブサイトから引用

 脳が振動の同期現象を巧みに利用しているのは、こうした「物体認識」に関する情報処理だけではない。人間を含む動物には「中枢パターン生成器(CPG)」というものが備わっており、この内部での振動パターンが、さまざまな身体の運動パターンを作り出していると言われている。

 人間や動物の歩行、魚の遊泳、鳥のはばたきなど、リズミックな繰り返し動作は、基本的にはCPGで創り出された運動パターンによるものと考えられている。そして、この仕組みは、近年、自律的に歩行するロボットに応用されはじめている。

「振動」がロボットを動かした?

 前回のロボットに関する記事で、自動掃除ロボット「ルンバ」に用いられている、「サブサンプション・アーキテクチャ」 というロボットの自動制御に関する新しい仕組みについてご紹介した。

 この仕組みは、これまでロボットの自動制御において大きな壁となっていた、「自分が動き回るために、周囲の環境をどのように認識すべきか」という問題、すなわち、「実空間」を認識する問題に対し、極端に表現すると「実空間の詳細な認識などやめて、ぶつかったら避ければいいじゃないか」という逆転の発想を用いた仕組みである。これにより、ルンバは、さまざまな家庭環境(どこにどのような家具があるかが事前に予想できない環境)でも、まるで生物のようにいきいきと動くことができるようになった。

 ロボットの自動制御に対するこのような考え方に加え、今回のコラムでこれまで紹介してきた「振動」による「パターンの生成」という考え方を利用することによって、近年、四足歩行ロボットなどのロボットが、まるで生物のようないきいきとした歩行ができるようになった。特に、Boston Dynamicsの四足歩行ロボット「BigDog」は、蹴飛ばしても倒れず、氷の上でも何とか体制を立て直して歩き続けるほど安定した歩行ができることで話題になった。

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