コストと守るべき価値とのバランス
管理する側としては、なるべく人々の動きを把握できるようにしたくなるものであるが、細かく管理しようとするほど前述のようにシステムのコストも、ユーザーが負うコストも高くなる。
一般的に、セキュリティのために掛けるコストは守るべきものやその価値に見合ったものでないと、使い勝手やUXを悪くする。
セキュリティ的な「問題」となる部分、なりうる部分をしっかり見極め、それに見合う管理や制限の方法をデザインする必要がある。必要な度合いよりも緩い管理にするわけにはいかないが、UXを大きく悪化させるような過剰なきつさはないか、常に気をつけたい。
入退場以外への応用
電子的に読み取り可能なIDは、もちろん鍵として入退場の管理に使うこと以外にも応用できる。たとえば、計算機システムのIDと結びつけて、プリンタに送ったタスクを、送ったユーザーのIDカードをプリンタに取り付けた認識機に読み取らせないと印刷しないというシステムがある。
これは、一見、プリンタへのアクセス制御のように思われるかもしれないが、それは計算機システムのIDによって行われている。
IDカードを使うことで解決しているのは、印刷したものの取り忘れ(内容によってはセキュリティ上の問題となる)や、他のユーザーの複数のタスクの間に自分のタスクが紛れてしまったりすることで自分の印刷したものを他のユーザーが持っていってしまうことがあるなどの問題である。
プリンタがいわゆる複合機で、スキャナ機能も使える場合は、スキャンされたデータは共有フォルダなどには置かれずにそのユーザーにメールで送られるなど、ファイルを探す手間や取り違いなどを防ぐことができる。
プリンタやスキャナを使うためにIDカードが必要というのは手間を増やしているとも言えるが、それに見合う利益があり、全体のUXを良くしていると言えるであろう。
そのような例は、今後増えるのではないかと思われる。他の応用例をぜひ考えてみていただきたい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCI が専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。