こんにちは、日立ソリューションズの吉田です。
Apache OpenOfficeプロジェクトの代表を務めるデニス・ハミルトン氏は9月1日、「Apache OpenOfficeプロジェクトは、プロジェクトとしてエネルギッシュな活動を続けるにはそのキャパシティに限界がある」―こんな書き出しで始まるメールをOpenOffice開発者メーリングリストに投稿しました。
ハミルトン氏は、OpenOfficeプロジェクトが深刻な開発者不足に直面しており、このままではApacheプロジェクトとして存続してくために必要な「The Apache Project Maturity Model(Apacheプロジェクトの成熟モデル)」の要件を満たせない現状を述べています。
今回は、Apache OpenOfficeプロジェクトの歴史を紐解きながら、OSSコミュニティのライフサイクルについて考えていきたいと思います。
OpenOfficeから派生したLibreOffice
出典:経済産業省、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示4.0 国際
Apache OpenOfficeプロジェクトは、米Sun Microsystemsが、1999年にドイツStarVision買収し、同社が販売していたStarOfficeのソースコードを2000年10月に公開して、OpenOffice.orgプロジェクトを立ち上げたことが起源になります。そのプロジェクトには、Sun Microsystemsのほか、米Novell、米IBMなどが参画しましたが、Sun Microsystemsがプロジェクトを管理していました。
2010年1月にOracleがSun Microsystemsを買収したことにより、プロジェクトの管理はOracleに移管されましたが、2010年10月に一部のメンバーが「The Document Foundation」を立ち上げ、OpenOffice.orgのソースコードを元にLibreOfficeの開発を開始しました。
その後、Oracleは2011年4月に、非営利団体が管理するのが望ましいと声明を発表し、2011年6月に、Apacheソフトウェア財団(ASF)へソースコードの著作権ならびにOpenOffice.orgの商標の提供を提案し、OpenOffice.orgの資産はオラクルからASFに寄贈・譲渡されました。ここで、OpenOffice.orgプロジェクトならびにOpenOffice.orgは終了しています。
2011年7月、IBMはLotus SymphonyのソースコードをApache OpenOfficeプロジェクトへ寄贈することを発表し、2013年の初頭にはLotus Symphony使用者に同ソフトへの移行を促す計画がされています。2011年11月、正式なブランド名について投票を行い、「Apache OpenOffice」に決定。そして2012年5月に、Apache OpenOffice最初の正式版3.4.0の提供が開始されました。
元開発メンバーの多くがLibreOfficeへ
出典:経済産業省、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示4.0 国際
今回、ハミルトン氏が指摘しているのは,「The Apache Project Maturity Model」の中の品質(Quality)に関わる部分のQU20「プロジェクトはソフトウェアをセキュアにしてくいことに高いプライオリティを置かなければならない」と、QU50「プロジェクトは迅速にバグレポートに対応していかなければならない」についてです。
具体的には、バージョン4.1.2に影響を及ぼし、悪用されれば任意のコードを実行されるおそれのあるバグについて、詳細なセキュリティアドバイザリが7月に公開されました。しかしながら、その時点ではパッチもホットフィックスも提供されておらず、Apache OpenOfficeプロジェクトはLibreOfficeや「Microsoft Office」で代用するといったさまざまな次善策を推奨しました。そして、ホットフィックスは8月30日にようやく公開されました。このようにApache OpenOfficeプロジェクトがプロジェクトとして対応しきれなくなっているという点です。少なくとも3人は必要なPMC(Project Management Committee)メンバーも現状ではひとりもいない状態であり,新しいリリースはおろか、セキュリティフィックスすら困難な状況に陥っています。これ以上Apacheプロジェクトとして存続させていくのは難しいと判断したハミルトン氏は,コミュニティに対しOpenOfficeプロジェクトの終了を提案したということです。
ちなみに、元OpenOffice.orgの開発者の多くは「The Document Foundation」のLibreOfficeの開発に移行しており、LibreOfficeは2015年に14回のバージョンアップデートを行ったのに対し、「Apache OpenOffice」のバージョンアップデートは2015年10月に行われた1回だけでした。