FinTechの実際

上司に「FinTechをやれ」と言われたら - (page 2)

小川久範

2016-10-17 10:00

 第三に、インターネットというテクノロジの発展の文脈でFinTechを理解する必要がある。FinTechはある日突然単独で登場したのではなく、インターネットが誕生し、その発展の過程で多くの産業に及ぼしてきた影響が、ついに金融業にも到達したと考えるべきである。FinTechの理解には、インターネットビジネスとその担い手であるベンチャー企業の特性や、インターネットの発展により他業界でこれまでに起きたことを熟知し、金融業界へ敷衍して考える必要がある。発展途上のFinTechだけを見ても、木を見て森を見ずということになりかねない。テクノロジの進歩という大きな潮流が我々の社会に与える影響を考察する視点を持つことが大切である。

 これまでのところをまとめると、FinTechとは、お金に関連する、ユーザー本位の多様なサービスや技術で、ベンチャー企業が提供する。そして、インターネットの発展の中で培われてきた技術やノウハウが活用されているととらえることができる。

FinTechは金融機関以外から生まれた

 FinTechの担い手はベンチャー企業である。つまり、既存の金融機関ではない会社がFinTechを生み出している。なぜベンチャー企業がFinTechを生み出すことができるのか。米国のP2PレンディングサービスLending Clubを題材に考えてみたい。Lending Clubは、インターネットにより資金の貸し手と借り手をマッチングし、仲介業者を排除することで、貸し手は高い金利を得られ、借り手は低い金利で融資を受けられるサービスである。

 Lending Clubの創業者Renaud Laplanche氏は、クレジットカードの複数回払いで買い物をした際、18%の金利を不当に高いものと感じた。一方、彼が銀行預金から得られるわずかな金利とのスプレッドが非常に大きいことは、起業家にとって事業機会であると気づいた。この感覚を、金融機関に勤める者が持つのは難しいのではないだろうか。そもそも自社が得る金利が高いことに対して不満を感じる理由はない。自社が支払う金利が低いことも同様である。この課題は利用者だからこそ気づくことができたのであり、解決することができれば、同じ課題を持つ人々を顧客として、事業を成り立たせることができる。FinTechがユーザー本位であるのは、金融サービスの利用者が設立したベンチャー企業の手によるものだからである。

 Laplanche氏の話に戻ろう。同氏は金利が高い原因は、

  1. 貸し手と借り手の間に複数の仲介業者が存在すること
  2. 借り手の信用力を正しく評価できないため、信用力が低い借り手による損失を信用力が高い借り手が金利という形で負担していること

 と分析した。1の解決には、インターネットが得意とするマッチング機能により、貸し手と借り手を直接結び付けることで仲介業者の排除に成功した。2については、ビッグデータ分析を活用し、借り手の信用力を正確に分析することで解決した。ビッグデータ分析も、インターネットの発展により大量のデータが生み出され、その分析のために進歩した技術である。

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