IT部門の塩漬け人材を解き放て
これまで、IT部門の業務には専門性が求められることなどを理由に、IT部門と事業部門の間の人事ローテーションや配置転換は困難であるとされてきました。また、IT部門内においても、開発や運用などの業務経験や専門知識の属人化によって、なかなか人員を異動させられないという状況も散見されます。
「あの人がいないと、この分野の業務が分からない」、「この人がいないと、このシステムを安定稼働できない」というようなキーパーソン(らしき人材)が IT部門には少なからず存在するのではないでしょうか。
こうしたキーパーソンは、特定分野の経験や知識が豊富であればあるほど、異動させることが困難となります。こうした状況は部門運営の観点から考えて決して健全な状態とはいえません。このようなキーパーソンの存在が人事異動やジョブ・ローテーションを妨げ、属人化を増長し、塩漬け人材を生み出すことにつながっていると考えられます。
さらに問題となるのは、年齢を重ねるにつれてキーパーソン自身が保守的な姿勢になり、「自分がいないと困るだろう」とばかりに、知識や情報を囲い込み、仕事の大事な部分を一人占めしようとするようになることです。
そして、業務ノウハウのドキュメント化や情報共有が滞り、これが常態化すると長期的な技術や知識の継承ができなくなるばかりか、現時点の業務のバックアップ体制すら築くことができなくなってしまいます。名実ともに、「その人がいないと何も動かない」という組織を作ってしまうことを意味します。
組織である以上、個人への過度な依存はリスクといわざるを得えません。IT部門長は、勇気をもって、こうしたキーパーソンを異動し、塩漬け人材の撲滅を断行しなければなりません。
残されたメンバーや新任の担当者は、当初は苦労を背負うことになるでしょう。しかし、人を育てるうえで苦労はつきものであり、こうした異動が起こりうることを部内のメンバーに知らしめることにより、属人化を避ける工夫が生まれてくると考えられます。
- 内山 悟志
- アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
- 大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。