スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zürich)で化学および応用生物科学部門の講師を務めるとともに、DNAストレージを研究しているRobert Grass氏によると、DNAストレージには従来のストレージと同様に、読み書き中に発生した何らかの問題に起因するデータ欠損に備え、データの完全性を維持するための冗長性が組み込まれるという。
同氏は、「つまり、本来であれば余分な情報をデータに含めることになる。簡単な例で説明したい。三角形を定義するには3辺の長さがあれば十分だ。しかしここで、3辺の長さと、いずれかの角度を与えたと考えてほしい。これが余分な情報をデータに含めるという意味だ。これでどのデータが欠落したとしても、三角形を復元できる」と述べた。DNAストレージも同じように機能し、どこかのデータが失われたとしても、データを復元できるよう、余分な情報を含めておくわけだ。
とは言うものの、DNAストレージが商業的に用いられるようになるまでには、乗り越えなければならない新たな障壁がいくつかある。
Grass氏は「DNAの短所として、われわれが望んでいるほど安定していないという点がある」と述べ、「DNAは脆弱な化学物質だ。机の上に数日間放置しておくだけで酸化、崩壊して、情報が失われてしまう」と続けた。
塩基の並びは、化学物質や温度といったさまざまな要因によってかく乱される。そして、DNAの損傷はデータの損傷を意味している。このため、どれだけ長くDNAを保存できるのか、またどれだけの誤りが保存中に発生するのかを左右する、DNAの貯蔵方法が重要となるわけだ。脱水処理はDNAの寿命を延ばす1つの方法だ。この他にも、骨の上にDNAを形成し、その周囲に外殻を作り出すという、ETH ZürichのGrass氏が率いるチームによって開発された技術がある。
Grass氏は「適切な保存環境さえあれば、DNAは数十万年にわたって保存できるということが化石の研究から分かっている。こういった化石に残されたDNAを調査し、骨の中(DNAが見つかるのはたいていの場合、骨の中だ)でどのような状態になっていたのかを研究すれば、DNAを今に伝える化石の状態というものを再現する素材を作り出せるようになる」と述べるとともに、「このようなDNAは無機質の素材の中に封じ込められている。このためわれわれは、ガラスを使用することにした。ガラスによって劣化からうまい具合に保護されるようになる」と述べた。
しかし、DNAの持つ生物学的な性質により、格納処理の途中で意図しない反応がいまだに起こり得るという。
Bornholt氏は「(DNAの符号化は)アルゴリズム的にはうまく機能する。しかし、DNAの働き方は均質ではない。このため書き込んだデータの塊全体が、どこかに消えてしまうような現象も発生した。その理由としては、新しい技術に慣れていないがゆえに、処理途中でミスを犯してしまった場合もあったし、さらに恐ろしい例としては、互いに相補的となるDNAシーケンスを書き込んだがために、2つのDNAが結合し、読み取り不能になってしまったという場合もあった。こういった問題に関して、われわれは研究の緒に就いたばかりなのだ」と述べた。