ガートナーが独自のテクノロジ評価指標として定期的に発表している「ハイプサイクル」。テクノロジごとに経過時間と期待度を示したものだが、その見方には誤解もあるようだ。本当の見方とはどんなものか。
「ピーク期は最も良い」「幻滅期は悪い」は誤解
「テクノロジのハイプサイクルは今やさまざまな形で利用されているが、その見方において誤解されているところもあるようなので、正しく理解していただきたい」
ガートナージャパン リサーチ部門バイスプレジデント兼最上級アナリストの亦賀忠明氏
こう語るのは、ガートナージャパン リサーチ部門バイスプレジデント兼最上級アナリストの亦賀忠明氏。同社が10月5日から3日間、都内ホテルで開催したカンファレンスイベント「Gartner Symposium/ITxpo 2016」のメディア限定セッションでの発言である。
ガートナージャパンが10月5日に発表した「日本におけるテクノロジのハイプサイクル2016年版」は図の通りである。8月には米Gartnerが「先進テクノロジのハイプサイクル2016年版」を発表。さらに同社では、テクノロジの分野別などのハイプサイクルを160種類以上、定期的にまとめているという。
日本におけるテクノロジのハイプサイクル:2016年(ガートナー ジャパン提供)
日本におけるテクノロジのハイプサイクル2016年版を見ると、今ホットな話題の「人工知能(AI)」や「モノのインターネット(IoT)」が「ピーク期」から「幻滅期」へと移りつつある一方、着実に普及しつつあるとみられる「モバイルコンピューティング」や「クラウドコンピューティング」が「幻滅期」の真っ直中にあるのが印象的である。詳細は関連記事をご覧いただくとして、亦賀氏がハイプサイクルの見方として誤解されているところがあるというのは、果たしてどういうことか。
それは例えば、「ピーク期とは最も良い状態」あるいは「幻滅期は悪い状態」といった文字通りの受け止め方を指す。
では、それぞれの時期の正しい理解とはどのようなものか。亦賀氏によると、ピーク期は「過度な期待」によって理想と現実にギャップがある状態のことだ。例えば、「コスト削減ができると思っている」「儲かると思っている」「すぐに使えると思っている」といった点が挙げられる。一方、幻滅期は「冷静な判断」を行う時期で、短期的には幻滅したとしても、中長期で見ると重要なテクノロジや考え方が存在する状態のことだ。「本物と偽物の区別」が行われるのもこの時期だという。
「幻滅期」は確固たる市場形成への登竜門
さらに、亦賀氏とともにメディア限定セッションで「最新のテクノロジトレンド」について説明したGartnerリサーチ部門バイスプレジデント兼ガートナーフェローのJamie Popkin(ジェイミー・ポプキン)氏が、ハイプサイクルの見方について次のような見解を示した。
米Gartnerリサーチ部門バイスプレジデント兼フェローのJamie Popkin氏
「ハイプサイクルにおいて最も注目すべきなのは幻滅期である。なぜならば、この時期に位置するテクノロジに対して、需要側と供給側が歩み寄る現象が起こり得るからだ。それはすなわち、テクノロジが具体的な商品やサービスになり、市場が形成されていく状態になることを指す。他のテクノロジとの連携や融合といった現象もこの時期に起こり得る。そうした幻滅期を経て根付いたテクノロジこそが、その後、確固たる市場を形成し、長期にわたって使われ続けるものになる」
Popkin氏のこの見解によると、前述したモバイルコンピューティングやクラウドコンピューティングは、まさに確固たる市場を形成しつつある状態に相当する。
これまでなんとなく感覚的に見てきたハイプサイクルだが、これからはPopkin氏の見解にならって幻滅期に一層注目してみたい。その意味ではIoTやAIがこれから幻滅期に入ってくる。今はその「前夜」であることを図に示したハイプサイクル最新版が物語っている。