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顧客エクスペリエンスにまつわる新常識--グッドマン氏

怒賀新也 (編集部)

2016-10-13 17:24

 「顧客は、ピザが配達されるまでのスピードよりも、注文が処理されている確実さを知りたい」

 セールスフォース・ドットコムが7月に東京で開催したイベント「Salesforce Summer 2016 Tokyo」に登壇した、「Customer Experience 3.0」の著者、John Goodman氏はこう指摘する。1970年代にまでさかのぼるというカスタマーエクスペリエンス(CX)の取り組みは、顧客接点を強化する取り組みは実施されたものの、顧客価値や経営への貢献度を数値で実証するまでには至らなかったとの反省があるという。

John Goodman氏
John Goodman氏

 そこで、収益に貢献する新しいマネジメントモデルとしてCustomer Experience 3.0を打ち出した。企業が提供する能動的なサービスで、顧客のトラブルや苦情を効果的に予防、回避し、顧客の信頼感やロイヤルティを高めた結果が、収益にどう貢献するかを示す。「サービス」や「顧客満足度」といった数値化が難しかった貢献度を実証しようとするもので、苦情の受け入れが再購買につながることや、ネガティブな口コミが満足なものよりも2倍多くの人に伝わるといった話は「Goodmanの法則」とも呼ばれている。

 Goodman氏によると、1976年のホワイトハウスによる消費者調査と比べても、米企業のサービスレベルはアップしていないという。深刻なトラブルに遭っても苦情を申し立てる顧客は多数派ではないことや、顧客の不満の矛先がかつての金銭的なものから、「無駄にした時間」に移りつつあることなどが問題とする。また、クレームを申し立てる時の手段は、11%対73%の率でインターネットよりも電話が多い。

 クレームを申し立てる際の消費者の期待と実態の乖離(かいり)は大きい。2015年の全米消費者不満実態調査によると、例えば、製品の修理やサービスの改善への期待は80%であるのに対して、期待通りの結果になったケースは25%にとどまる。返金については同57%に対して18%となっている。

 同氏が指摘する「5つの不快な顧客対応」は、1.ホームページをご覧ください、2.貴重なご意見ありがとうございます、3.受付窓口の電話番号が見つからない、4.受付時間が短い、5.(一度で解決しなかったのに)「他に要望はございますか?」となっている。

 Goodman氏は「消費者、顧客は柔軟な対応と明確な説明を求めている」と指摘。また、トラブルが起きてからではなく、能動的に対処することの効果が大きいことを強調した。

 Mercedesのディーラーでは、修理メンテナンスサービスの標準料金に不満を抱く顧客が多かった。

 そこで、料金とサービスの内容を事前に告知した。修理期間中に貸し出す車両はすべてMercedes、技術者は全員メーカー認定研修を終了し、最新情報を備えている、最新の診断ツールがあること、最寄り駅への送迎サービス、純正パーツの使用、無料の栗^人具とカーケアサービス、1億円相当のパーツ在庫などだ。これにより、問題の解決に至った。能動的な情報提供が顧客の「痛点」を回避した事例として紹介している。

 ある企業のケースでは、自社顧客の15%がトラブルを体験、苦情を申し出るケースが25%、申し出ないケースが75%として計算した。

 申し出た場合の顧客の対応について、「満足」した人の50%は再購買の意向が90%、「しぶしぶ満足」の場合は80%、「不満」を持った人は70%だった。一方で、苦情を申し出ない人の再購買意向は75%とした。この比率に応じて、実際に再購買した人の比率も推移する明らかな傾向が見て取れた。

 結果として、この企業は、トラブルの発生を5%減らすことで損失が減り、11.5億円の収益回復を果たしたという。コールセンターへの入電は1万2500件減った。

 上記の事例で注目されるのは、トラブルに遭っても苦情を申し出ないとした層が75%に上っており、再購買率も相対的に低いこと。Goodman氏は「特にBtoBでは苦情を申し出ない顧客の実態を理解することが必要」とまとめている。

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