現代人は、テクノロジの良し悪しをスペックだけで判断しないのだ。そのテクノロジが自分にとってどれだけロマンチックか、この世界にどんな素晴らしい物語をもたらしてくれるか。判断基準はそこにある。ゆえにそのヒントは、IT分野の一線で活躍する3、40代の技術者・研究者が、かつて親しんだアニメやマンガという「物語」のなかにありそうだ。
本連載ではその「物語」を今一度参照することで、ワクワクするITガジェットの活躍する未来について、想いを馳せてみたい。
Googleが実現した「未来デパート」
というわけで、今回は「未来デパートとしてのGoogle社」と銘打ってみた。「未来デパート」とは、ドラえもんがひみつ道具を購入する22世紀のデパートのこと。作中でもたびたび、配達員が時空を超えてのび太の部屋に配送するばかりか、開発中の試供品を送りつけてくることもある。
結論から言えば、Googleはいわば「21世紀の未来デパート」である。『ドラえもん』に登場するひみつ道具のいくつかを、ほぼ現実化・商品化しているからだ。
Google Earth
たとえば、30年以上前に描かれた「トレーサーバッジ」(*1)というエピソードは、のび太がジャイアンたちにクローバーやダイヤといった形の「トレーサーバッジ」を身につけてもらい、「レーダー地図」で町内にいる彼らの位置を把握するというもの。
現在で言うなら、「トレーサーバッジ」は位置情報を発信する発信機、「レーダー地図」はGoogle Mapを表示できるタブレット型端末にあたる。要は発信機の位置情報を、GPSで追尾しているというわけだ。iPhoneの盗難・紛失用アプリ「iPhoneを探す」を使えば、iPhoneを位置情報発信機として、ほぼ同様のことができる。
しかも、作中の「レーダー地図」に描かれた町内の地図は非常に簡略化されたものだったが、現在のGoogle MapやGoogle Earthは、「レーダー地図」とは比較にならないほど地図上の情報量が多い。その意味では、Google社の技術は22世紀のそれを超えている。
『ドラえもん』には、トレーサーバッジとレーダー地図に類する道具の登場が少なくない。「ポラマップスコープとポラマップ地図」(*2)、「この道トーリャンセチャート」(*3)などは、ほぼ同じ機能を持っている道具だ。
作者の藤子・F・不二雄の志向もあるだろうが、「いち個人が神の視点で世界を見渡す」類いの全能感には、時代を超えて人を引きつける魅力があるということだろう。