振り返ってみると、2015年5月に同社社長に就いた鈴木氏は就任会見でシスコの課題について、「グローバルな展開力を生かしながらも、それぞれのローカル市場に求められる製品やサービスをどのように生み出して提供していくか。これからは私自身も、日本市場でそうした役割を積極的に担っていく必要があると肝に銘じている」と述べている。その考え方は2年目も全くブレはないようだ。
それを示して見せたのが、今回の会見での質疑応答のひとコマである。実は、3つの重点戦略の文言は前年度と同じであることから、「前年度の重点戦略の取り組みとどこが違うのか」との質問が出た。それに対して鈴木氏は、「日本市場向けの製品やサービスの展開、さらには地域や中小企業への事業拡大といった取り組みは前年度から注力し始めた。今年度はそれをさらに加速させるのが重点戦略の基本的な考え方だ」と答えた。
冒頭の発言は、このコメントに続いて述べたものである。「もっと相手にして…」とは自信がないようにも聞こえるが、筆者はこの発言に同氏の強い危機感と、前年度の取り組みにおける確かな手応えの両方を感じた。果たして思惑通り、重点戦略をさらに加速させることができるか。同氏の経営手腕に注目しておきたい。
「日本の金融機関のAI・ロボティクス活用ニーズに応えたい」 (アクセンチュア 中野将志 執行役員)
アクセンチュアの中野将志 執行役員
アクセンチュアが先ごろ、金融機関向けに人工知能(AI)やロボティクスなどの技術の活用を推進する専門組織の新設と、関連サービスの提供開始について記者説明会を開いた。同社執行役員で金融サービス本部 統括本部長を務める中野氏の冒頭の発言はその会見で、新たな取り組みに向けた意気込みを語ったものである。
中野氏によると、「日本の金融機関は、法規制の強化やマイナス金利政策への対応、さらには働き方改革の推進といった観点から、業務の効率化や生産性向上への取り組みが求められている。海外の金融機関が先行して取り組みを始めているAIやロボティクスなどの技術を活用したいというニーズが高まっている」という。そこで、そうした海外の金融機関の取り組みを支援している同社のノウハウを、国内の金融機関にも提供しようというのが今回の発表の骨子である。
具体的には、AI・ロボティクス領域の専門チームを社内横断型の組織として新設し、戦略立案から導入・実装、導入後のソリューション評価、運用までトータルで支援。とりわけロボティクスでは、業務の自動化に向けた「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」と呼ぶ技法を用い、同社の海外でのRPA導入実績をベースとして、適用余地診断から実装までの各種方法論やツールを提供するとしている。
AI・ロボティクス領域の専門チームを社内横断型の組織として新設
さらに詳細な発表内容については関連記事をご覧いただくとして、ここでは会見の中で出てきた印象深かった言葉を紹介しておきたい。それは「“負荷”の高い作業はロボットにやらせて、人間は“付加”価値の高い作業を行う」というものだ。
同社の今回の取り組みにも通底する考え方だが、ふと筆者の頭に浮かんだのは、負荷の高い作業をロボットに任せるとしても、果たしてすべての人間が付加価値の高い作業を行えるのか、といった点だ。つまりは人間の能力が問われることになる。
この点について中野氏に聞いてみたところ、「付加価値の高い作業を行えるように人間の能力を高めるのは非常に重要なポイントだ。そこにも技術を生かせないか、考えていきたい」とのことだった。これは金融機関にとどまらず、多くの企業にとって重要なテーマになりそうだ。