Rethink Internet:インターネット再考

生命としてのインターネット(前編)--血肉化する情報世界 - (page 2)

高橋幸治 2016年11月12日 07時00分

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「私」がインターネットで、インターネットが「私」

 最初の問いに戻ろう。冒頭の「第2四半世紀に突入したインターネットの姿をどのようにイメージするか」という言葉を思い出していただきたい。

 それはおそらく何がインターネットにつながっていて何がインターネットにつながっていないのかをほとんど意識しない世界であり(各家庭へのIoT=Internet of Thingsの普及や車の自動運転などはまさにこの状態だろう)、同時に人間自らが単独で思考しているのかインターネットによって思考を促され導かれているのか容易には見極めがつかない世界であり、人間的なものがインターネットの中に流れ込み人間の内にインターネット的なものが混ざり込むような世界だろう。

 つまり、インターネットが人間の思考や知覚、記憶にとってより不可欠な拡張頭脳、拡張身体となるだけでなく、そのフィードバックが今度は人間の思考や知覚、記憶をよりインターネット的なものに変容させていく。

 「私」の思考や知覚、記憶がインターネットを構成する1つの細胞となり、インターネットを経由して自分の中に流入した誰かの思考や知覚、記憶が「私」を構成するひとつの細胞となるようなイメージ……。言うなれば「私」がインターネットであり、インターネットが「私」である。「私」という生命体との境界が極めて曖昧になるインターネットは、ある種の生命的な要素を獲得していくのかもしれない。

 もともとインターネット誕生以前から、情報というものは常に何らかの生命体に喩えられ擬えられてきた。例えば13世紀マヨルカ(現在はスペインの自治州)の哲学者Raimundus Lullus(カタルーニャ語ではラモン・リュイ)の「学問の樹」のタイトルページには、あらゆる知識が同一の樹木から根として、幹として、枝として、葉として成長/分岐しているイメージが描かれている。

 19世紀ドイツの生物学者Ernst Haeckelも、生物進化の過程を樹木に見立てて表現した「生物の系統樹」という図像を作成した。情報の分類を樹木に仮託する手法は諸要素の同根性を暗示したり、枝葉による上下関係、前後関係、階層構造を明示する際に役立つだけでなく、根を張り、生い茂り、実を付けるという、生命的なイメージも同時にまとってはいないだろうか。

「学問の樹」
ライムンドゥス・ルルスによる「学問の樹」のタイトルページ。人間はしばしば情報や知識の「編集」に樹木のイメージを適用してきた。情報とはあたかも樹木の根、茎、枝のように這い伸びては絡み合い知識となる、極めて生命的な有機体なのだろう(wikipediaより)

 やがて交通網が発達し、交通量が増加し、モノ/ヒト/コトというより複雑かつ多岐に渡る情報が頻繁に移動するようになると、今度は道路が人体に張り巡らされた血管に喩えられるようになる。フランスの作家であるVictor Hugo(ヴィクトル・ユゴー)は小説「ノートルダム・ド・パリ」(1831年)の中で、15世紀のパリの街並みや大通りを次のように描写している。

 高みから見下ろすと、中の島、大学区、市街区の三つの区は、どれも、通りがふごちゃごちゃと変てこにもつれ合って、こんがらがった編み物のように見えた。だかこの三つの部分が集まって一体をなしているのだということは、ひと目でわかった。(中略)

 ところで、いろいろの名で呼ばれながらも結局、じっさいは二本の通りがあるにすぎなかったのだが、しかしこの二本は、ほかの通りを生み出す母体となる通りであり、パリの二本の大動脈であった。パリの三つの区の血管ともいうべきあらゆる通りは、ここから流れ出たり、この二つの通りに注ぎこんだりしていたのだ。

ヴィクトル・ユゴー「ノートルダム・デ・パリ」
「レ・ミゼラブル」や「エルナニ」の作者として知られるフランス・ロマン主義の小説家ヴィクトル・ユゴーの「ノートルダム・デ・パリ」。パリの大通りを「大動脈」、そこから分岐する通りを「血管」として表現している点が興味深い(Amazon提供)
<後編に続く>
高橋幸治
編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。現在、「エディターシップの可能性」をテーマにしたリアルメディアの立ち上げを画策中。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。

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