一方で、今日「クラウド」と呼ばれているサービスの中には、実態は、従来の「リース」と同様の、「ITシステム投資の繰延払い」に類するものもある(図4下)。
つまり、中長期での利用を前提として、「計画経済的な」利用計画の事前策定をうけて一括構築を実施し、その利用実態によらず、一定の利用料を払い続けるというモデルである。
一見安価で分かりやすい料金設定や契約前提ではあるが、必要なITシステムリソースに計画外の増減した場合に、何らかのペナルティ(長い作業期間、利用料単価の増加や違約金など)が発生し、また市場の技術革新による恩恵も受けられない。
筆者がこれまで見てきた中では、現状(クラウド化前)のITシステムの可視化・構成管理・標準化も十分できておらず、その先の目指す姿が十分検討されていないまま、ハードウェアビジネス主体の現行ベンダーと協議しながらクラウド化を推進しようとした企業・組織が、意図せずこのような「クラウド」を選定しようとしていたケースがいくつかあった。その場合、3~5年といった契約期間が満了するまで身動きが取れない「ロックイン」状態となる恐れがある。
「真のクラウド」とは、使いたいときに、使いたい分を契約し、当初想定していた利用計画に対する変動が発生した場合にも、制約なく増強や廃止が可能なクラウドである。そして、このようなクラウドの先には、ITシステムの利用量ではなく、それを利用したビジネスが生み出した価値(利益)にフォーカスした、「成果報酬型」の「Business as a Service」の世界が広がるのである(図4上)。
マルチスピードITを支えるITシステムを実現し、企業や組織の変革のツールとしてクラウドを導入していくためには、どのようなクラウドを導入するのか、留意いただければと思う。
図4:ITシステムの「所有」から「利用」への2つの道(アクセンチュア提供)
おわりに
今回で最終回の本連載では、全5回にわたって、「クラウド」をキーワードに、日本のITの在り方を掘り下げてきた。ITシステムのサービス利用、即ちクラウドの導入は、ITインフラストラクチャに変革を促す機会となり、また変革を加速し継続的に取り組むためのツールともなりえる。そのためには、テクノロジ(モノ)だけでなく、組織やプロセス、文化(ヒト)、所有と利用(カネ)といった観点で、複合的にクラウド導入の計画を策定することが肝要である。
本連載記事が、「クラウドシフト」による事業価値創出に向けての一助となれば幸いである。
- 戸賀 慶(とが けい)
- アクセンチュア オペレーションズ本部 インフラストラクチャーサービスグループ シニア・マネジャー サーバ、ネットワーク、ストレージなどのデータセンターテクノロジおよびクラウドを専門とし、現職では企業におけるインフラ全般の最適化に向けたコンサルティング、トランスフォーメーションを担当。 アクセンチュア ジャパンにおけるクラウドイニシアティブのリードとして、クライアント企業にクラウドの真の価値を届けるために日々、奔走。
- 小原 誠(こばら まこと)
- アクセンチュア株式会社オペレーションズ本部 インフラストラクチャーサービスグループ マネジャー サーバ、ネットワーク、ストレージなどのデータセンターテクノロジおよびクラウドに係るコンサルティング(戦略立案)からトランスフォーメーション(要件定義・設計・構築)まで、官公庁・自治体、製造業、サービス業、通信・ハイテク企業など業種を問わず担当。