前回は、サービス事業の収益化と競争優位確立の事例を紹介しました。最終回となる今回は、サービス事業にトランスフォーメーションするために今すぐ始めるべき3つのアクションについて考えてみたいと思います。
アクション1:紙の伝票を廃止し、情報の一元化を図る
保守サービスの分野は、企業におけるさまざまな業務の中で最もIT化が遅れていると言われています。実際、作業指示書や作業要員スケジュール表、顧客と社内それぞれの作業完了報告書など、紙による作業が多く残っています。紙によるやり取りは、その作成に時間が掛かるだけでなく、そこに書かれた情報を加工・再利用しにくいというデメリットがあります。
例えば作業報告書には、通常対象となる機器や利用期間、障害の具体的な事象と原因、現場でとった対策などが記載されます。これらの情報が紙に記載されたままだと、オンライン上で検索や共有ができないため、情報が放置もしくは廃棄されているのと実質的に同じであると言えます。
製造業のサービス事業部門に限らず、設計・製造部門や部品管理部門では、製品品質の向上、保有部品のフォーキャストなどのために日々データを分析し、採るべき施策が検討されています。製品出荷後に客先・設置先で起こっていることがこれらの改善施策においてどれほど重要かを考えてみてください。今すぐ紙のやり取りは廃止し、作業員にモバイル端末を利用させるなどしてこれらの情報を常に加工・再利用できるようにデジタル化するべきです。
また、デジタル化されていても、障害受付履歴や顧客・契約情報、作業員のアサイン履歴などサービス事業に関連する情報がシステムごとに分断されていると、効果も限定的になります。サービス事業にかかわるすべての情報を一元的に管理できる仕組みを構築することで、製品出荷後に起こったさまざまな事象を調査・分析し、以降の改善施策のための知見として利用できるようになります。
アクション2:改善のための指標を作成する
自社のサービス事業を改善するためには、現場で起こっていることを客観的かつ定量的にとらえることが重要です。紙の伝票を廃止し、情報の一元化を図るのもこれが目的です。しかし、「データは揃えたけど、何をどのように見ればよいのか」と悩む方も多いでしょう。
サービス事業や保守サービスは、一般的な経営指標とは異なる指標で評価する必要があります。しかし、その指標となるものは、この分野を永きにわたって生業としてきた人たちの“頭の中”にあり、明示されていないケースも多いようです。
筆者の勤務先では、普遍的かつ標準的な指標として、また改善の検討開始にあたって収集すべきデータとして、次の7つの指標のデータを収集しています。
- 要員稼働状況(Utilization)
- 初回解決率(FTF)
- 平均障害復旧時間(MTTR/MTTI/MTTM/MTTS)
- 保守契約締結率(Attach Rate)
- 平均応対時間(Average Response Time)
- 再訪問率(Repeat Visit)
- 製品稼働率(Contract Uptime)
データを収集したら、それぞれの指標の数値を、製品ごと、サービス組織ごとといった自社の評価軸に沿った形で分類します。それによって、どのような施策を採るべきかが見えてくるはずです。
アクション3:IoTで予知保全
ある調査によると、日本国内に設置されている機器や設備の約40%がなんらかの形でデータ連携できる仕組みがすでに存在するそうです。障害時にFAXで発報するものや、リモート接続用のゲートウェイの設置が必要なものなど形態はさまざまですが、欧米諸国と比べてとても高い数値だと思います。つまり、日本はIoT先進国のトップを走るための基盤をすでに持っている国であると言えます。
ただし、IoTという言葉が一人歩きしてしまっている感も否めません。具体的なアイデアがあるわけでもなく、経営層から「うちもIoTをやれ」とだけ言われて困惑している担当者も多いのではないでしょうか。
IoTを取り巻く要素技術はほぼ成熟の域に達していますが、収集したデータを何に使うとどのような効果があるのかがわかりにくいという面もあります。また、技術的なハードルが高いというイメージがあるかもしれませんが、ノンプラグラミングで迅速にシステム実装可能なIoTプラットフォームもあるので、導入の障壁は低くなりつつあります。
保守サービスにIoTを組み合わせれば、予知型保全の仕組みを作ることが可能です。それによって、次のような効果が期待できます。
- 製品稼働率の向上による顧客満足の向上
- データ分析によって交換部品の特定が可能となり、さらに初回解決率と保守部材の管理性が向上
- “火消し型保守”からの脱却による作業要員の工数最適化
- マシンデータと障害履歴の紐付けによる設計・製造部門への的確なフィードバック
- 将来的な“成果型サービス”に向けたインフラ作り
4回にわたってサービタイゼーションに向けた取り組みを考察しました。すでにお気づきの方もいるかもしれませんが、サービタイゼーションへの移行は一足飛びにはいきません。
本連載で紹介したいくつかのステップだけでなく、自社の中でのサービス事業に対する姿勢、製造業における川上と川下のバランスに対する方向性、製造業を取り巻く世界規模の環境変化への対応など、取り組まなければならない課題は多岐にわたります。その中で、本連載が「もの作り国家、日本」の復権に少しでもお役に立つことができれば、大変うれしく思います。