前回は、デジタル化時代の小売業に求められる変革の3つのステップのうち、「(1)十分な顧客理解に基づいた方針策定」と「(2)オペレーティングモデルの構築」について確認した。最終回となる今回は、最後の1つである「(3)ITプラットフォームの構築」について解説したい。
アクセンチュアが、日本を含めた8カ国の消費者(6000人)小売業(60社)に対して実施した調査 で、小売業が提供しているサービスについて消費者に5段階で評価してもらったところ、”1”という評価も少なくなかった。消費者が小売企業に対して抱く“理想”と小売業が提供するサービスの“現実”にはギャップがあることが伺える。
こうした現状を踏まえ、消費者が求めるサービスに応えるためのITプラットフォームを整備する際、基本的な方向性として考慮すべき4つのポイントを以下で説明していく。
ポイント1:自社ITを見つめ直し、発想を転換する
(1)ITロードマップの再確認
多くの小売業は、ERPの新規導入や既存ERPのアップグレードに多くの費用と時間を費やしてきた。しかし、筆者がコンサルティング業務を行う中で多くの顧客が、「これまでと同様のシステムでは、昨今のデジタル化の波に乗ることができないのでは」と疑念を抱いている。
デジタル化を進める上で重要なことは、今までのレガシーシステムを基軸としたITロードマップに固執しすぎないことである。追加のIT施策は、従来のITロードマップにそぐわない場合が多く、IT予算も予想外にかさんでいく。しかし、ビジネスサイドのシームレス化計画に沿った「IT施策の優先順位づけ」や、「既存システムの有効活用」を熟考する意味でも、ITロードマップを見つめなおすことを避けてはならない。
(2)SOAの再考
小売業がデジタル化を進める上で、企業が持つ全てのチャネル、例えば、配送センターや店舗での在庫を把握することは非常に重要である。しかし多くの場合、地域やチャネル、業務プロセスごとに分断されて在庫情報が管理されており、即座に全ての在庫情報が「可視化」された環境に移行することは、ビジネスのスピード感やコストを考慮すると現実的ではない。
そこで、自社のシステムを再確認し、既存システムを最大限に活用する方法を探求することが重要になってくる。10年程前に脚光を浴びたSOA(サービス指向アーキテクチャ)という概念がある。デジタル化に向けてビジネスプロセスの変革が求められている中、既存のシステム機能をできる限りサービス化し、再利用性の高いアーキテクチャを目指していくことを真剣に検討すべきであろう。