自分がコントロールできることに集中する
そして、マインドが変わったのちに立ちはだかる壁は、人事評価です。いくらプロでありたいと考えていても、その活動が評価されなければ、心が折れてしまい長続きしません。
そこでアイデアです。アプリ開発者へ提供した価値を数値化し、評価に加えてもらうよう、上司に提案してみませんか。具体的には、以下の2つです。
- アプリ開発者がインフラ提供を待っている時間
- アプリ開発者との打ち合わせ時間
これらの時間をどれだけ減らせたかを評価指標にしてもらうのです。数値化できて具体的ですし、自分で把握できるデータなので、アプリ開発者の手間にもなりません。

人件費について、ダイレクトな物言いで踏み込みたい人は少ないと思います。そこで、時間にフォーカスするのです。人は何をするにも、必ず時間が必要です。
アプリ開発者は時間を欲しています。やることがたくさんあります。何度も打ち合わせをしたくありません。打ち合わせを必要最小限にしてくれる人のことが大好きです。また、インフラのリードタイムが短くなれば、開発や検証にかける時間、回数を増やすことができます。リスクを減らすこともできます。
実際の事例として、クラウドと自動化でインフラのリードタイムを劇的に短縮した組織では、これまでアプリとインフラの間の足元に転がってお見合いをしていたサイジングについて「当たらない机上の空論より、実際動かしてみよう」という変化が見られました。
手段は技術やツールに限りません。コミュニケーションを変えるだけで効果があるかもしれません。大事なのは目的を意識することと、具体的な指標を持つことです。そこがしっかりしていれば、ツールに振り回されることはありません。
上司と評価対象として合意できたらこっちものです。なぜなら、その活動に時間を使っていい、という合意だからです。もしそれを否定されたら、何のための評価と合意だ、ということになります。
自分がコントロールできることに集中しましょう。その範囲でも、ビジネスインパクトは出せるはずです。モノ減らしではなく、人への貢献で。
ビジネスリーダーにとって、モノのコスト削減だけにこだわっている組織より、生産性を上げ、仲間の働きやすさを考え、支えようとしているチームのほうが価値があるはずです。日本社会全体で過度な勤務時間が問題視されている今、それはなおさらではないでしょうか。
もしあなたが、部下の評価指標を承認する立場のマネージャーであるなら、ぜひ部下からの提案を受け止め、ビジネスリーダーにかけあってください。

今は我慢のときかもしれない
冒頭で「ITがビジネス成長にさほど連動していない、もしくは、連動していないようにビジネスリーダーから見えている企業もあります」と述べました。「ウチの会社もそうかもしれない……」とその時点でゲンナリしてしまったかもしれません。
ですが、きっと遠くない将来、ビジネスそのものをデジタル化しようという大きな波が欧米からやってきます。産業機器をビジネスの柱にしている米GE社が、ソフトウェア開発者向けのカンファレンスを開く時代です。ビジネスリーダーがITの価値に気づくその日まで、しっかり準備をしておきませんか。それは個人として、成長の機会でもあるはずです。
使い手に価値を提供できるプロになれば、仕事の選択肢が増えます。そうなれば、違う場を選択するという手もあります。インフラ技術者のキャリアについては、追ってこの連載でも触れたいと思います。
- 真壁徹 (まかべとおる)
- 金融系システムインテグレーターのアプリ開発者としてキャリアをスタートし、その後外資系ベンダーにてインフラとオープンソースを主戦場とした。クラウドとオープンソースの交差点であるOpenStackに注力し、コミュニティでも意欲的に活動。現在はクラウドベンダーにてソリューションアーキテクトを担当している。