内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」

IT組織強化のための人事ローテーションモデル - (page 2)

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2016-11-16 07:30

IT部門内のジョブ・ローテーション

 IT部門のなかに目を向けても、ジョブ・ローテーションの活性化が求められます。IT部門内に、「会計システムの保守を15年やっている」「ネットワーク運用を20年やっている」といったその道一筋という技術者を抱えている事例は少なくありません。こうした専門知識と実務経験を豊富にもった人材がIT運営を支えている部分が大きいのも事実です。

 欧米のように、1000人規模のIT部門が配置されていたり、容易に中途採用ができる環境でない限り、過度な分業体制と属人化は組織リスクとなり得ます。数十人規模の人員で、企業のIT運営を担っていかなければならない国内のIT部門においては、人材の多能工化を図っていかなければならないのです。多能工化とは、元々建築業や製造業の現場で用いられている概念で、作業者全員が複数の工程を受けもてるように教育・訓練することを意味する言葉です。

 IT部門における多能工とは、企画、開発、運用、ユーザーサポートといった業務分野や、会計、販売、生産、物流などの業務システム分野について2つ以上の専門性を身につけた人材を指します。こうした人材を育成するためには、1つの専門分野を主担当として受け持つと同時に、異なる分野の副担当を兼務したり、チーム横断的なプロジェクト編成を行うなどして、業務ノウハウを移転していくことから始めるべきです。その際、業務プロセスや利用する要素技術の標準化も併せて進めていくことが、ジョブ・ローテーションを円滑にする一助となるでしょう。

 クラウド・コンピューティングの進展やオフショアの台頭など、IT部門の組織運営に大きな影響を及ぼす動きが活発化しています。また、デジタルイノベーションへの期待も高まる一方です。今後も企業ITを取り巻く環境は著しく変化することが予想され、10年先のコンピューティング・パラダイムがどのようなもので、その時にIT部門はどのような姿であらねばならないのかを予測することは簡単なことではないのも事実です。

 しかし、企業がITを使い続ける限り、ITとビジネスの橋渡しを担う人材が必要となることに変わりはないでしょう。 現在のIT部門を担っている40歳代や50歳代のベテラン人材の知恵や経験を社内に担保できるうちに次の世代を育てる人材戦略を、IT部門は経営に対して能動的に提案していくことが求められます。

内山 悟志
アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。

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