Fintechの正体

「ロボアドバイザー元年」を迎えた日本--投資をシステムにまかせる意味 - (page 2)

瀧 俊雄

2016-12-09 07:00

 ロボ・アドバイザーの商品は、「アセットアロケーション」自体をサービスにしていることが特徴です。アセットアロケーションは、資産運用の理論では「β投資」と呼ばれます。市場全体の浮き沈みと一緒に投資金額も動くけれど、そのリスクを取ることで良いリターンを得られる投資で、いわゆるインデックス運用にあたります。

 例えばポートフォリオを組んで7%の運用をしたとして、βリスクが5%含まれていたら、引いた2%が銘柄やタイミングを考慮して追加的に得られた成果(α)になります。「良いβ投資の素材は“Boring and cheap”である」と言われているのですが、それは、βは誰が運用してもほぼ同じ結果が出るため「つまらない」(boring)一方で、「安く」(cheap)提供できるからです。

 一方で、引いた2%にあたるαを継続的に生める人は稀です。それが理解されているため、米国ではβに価値をおいている人が多く、ロボ・アドバイザーとの相性も良いのです。

 一方、日本ではαに着目した投資に寄りがちで、銘柄やタイミングを考えることが重視される傾向にあります。ロボ・アドバイザーはそういった傾向への反論になっていくでしょう。α投資は、資産運用の実証研究では10%程度の付加価値しかないのですが、それがわかっているのはファイナンス理論に理解のある限られた人のみなので、今後、どうやって広めていくかが課題になる見込みです。

運用型ロボ・アドバイザーのメリット

 どういうポートフォリオが良いのかを算出できるのは提案型のロボ・アドバイザーも同様ですが、運用型のロボ・アドバイザーには、これに加えて2つの付加価値があります。

 1つ目はリバランスです。ポートフォリオで運用をしていると、市場の変動で投資配分の比率も変動します。その時に、元の比率にして正しいリスク状態に戻すことがリバランスですが、ただ戻すだけではなく、ライフプランの変化に沿った形で比率を上げたり下げたりすることが、ロボ・アドバイザーには可能です。家を買ったばかりなのか、ローンを払い終えたタイミングなのかによっても、自分が保有するべき株式の割合は違います。自分に合った割合を決めて、その分のETFを買うところまでできるのが、運用型ロボ・アドバイザーの特徴なのです。

 また、海外でロボ・アドバイザーの話をしていると“set and forget”というフレーズがしばしば登場します。これは、投資は一度設定したら、あまり見ない方が良いということです。インターネットで外国為替証拠金取引(FX)などをしたことがある方はわかると思うのですが、株をたびたび取引することは、多くの人にとっては良いこととは限りません。

 変動する物があると人は反応してしまうので、それを「見ないでいさせてくれること」、そのせいで集中力を乱されないようにしてくれることが、運用型ロボ・アドバイザーの2つ目の付加価値ではないかと思っています。

 提案型のロボ・アドバイザーの場合には、最終的には自分でファンドを買うことになるため、究極的な「set and forget」はできません。余計なことを考えてポートフォリオを作ってしまうからです。企業の利益率がプラスである限り、基本的に株式投資というのはプラスになるものなので、保有し続けることに意味があるのです。

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