データ、IT技術を駆使したデザインで、バミューダで最も速いボートを作る。しかしながら、それを確実にセーラーがコントロールできることもさらに重要だ。「ボート上で情報は、インカムやモバイルデバイスを通して随時入ってきます。それらからリアルタイムな戦術判断ができるのは大きなポイントです」とCampbell氏。
そして、セーラーの操船に直接影響を及ぼすコントロールシステムも劇的に変わったとSimmer氏は言う。反応時間や正確性が向上しており、レスポンスタイムが速くなっているのだ。油圧システムでは、高速バルブを使われ精度の向上し、セーラーのコントロールもしやすくなっているとのこと。これらのコントロールシステムの開発では、航空機のメーカーであるエアバスが協力している。コントロールシステムのソフトウェアもエアバスのテクノロジーを使っているのだ。
さらにチームUSAでは、セーラーのバイタルデータも日常的に収集している。「トレーニングをするジムでも水上でも、毎日センサを着用しフィットネスのパワーアウトプットも計測しています。そういったデータを使って、個々のセーラーが最高のパフォーマンスを出せるように、たとえばコントロールシステムの油圧調整も行っています」とのことだ。
もう1社協力しているのが、「4iiii」という自転車メーカーだ。操船時にはウインチと呼ばれるシート巻き取り機のクランクハンドルを、強い力で高速に回せなければならない。4iiiiでは自転車競技でペダルを踏む際のデータ収集技術を応用し、クランクやハンドルにセンサを付け、回転の速さやどれくらいの力がハンドルにかかっているかなどのデータを計測しているのだ。このデータも、セーラーのパフォーマンス発揮に利用されている。
さまざまなデータを取得し速いボートを作る。さらに、セーラーの能力を最大限に発揮できるようにもデータを活用する。それらの上に、人間が自然を相手に行うスポーツ的な要素も、勝敗には大きく影響する。データがなければ勝てない世界である。同時にデータから得られる知見を、いかにして人が使いこなせるのか。現在のIoTやビッグデータ活用で効果を最大限に発揮するための究極の姿が、America's Cupの世界にはあるようだ。