スローな環境が伸ばす創造性--東京から70キロの「田舎」プロジェクト盛り上がる - (page 5)

中川生馬(バックパッカー)

2016-11-27 09:46

短期間で地域活性へとつながり、成果は出るのか?

 横瀬町とリクルートの地方創生への取り組みはまだ始まったばかり。150人の関係各社の前で発表し、交付金の大半をリクルートに投資した以上、「よこらぼ」に対する地域住民の期待は高まっていることだろう。

 役場はリクルートの全面的なサポートより、社会性あるプロジェクトに取り組む企業や個人を、どのくらい誘致できるのか。

 その鍵となるのは、横瀬町で生まれた新プロジェクトだろう。社会性のある新しいプロジェクトであれば、「横瀬町」の名前を世の中に発信することができる。今後、町に誘致するプロジェクトの質や数の結果には期待したいところだ。

 いまや、テクノロジの飛躍的な進化により、都会から離れた田舎からでも仕事ができる時代。「席はオフィスに置く必要はない」と、働く場所を問わないベンチャー企業も増えている。

 通信インフラは拡大し、ブログ、Facebook、Instagram、Twitterなどのソーシャルメディア、Chatwork、Skypeなどのビジネスチャットやビデオ電話などのコミュニケーション、ネット上で企業や個人が双方に仕事の受発注ができるクラウドソーシングなどを活用することで、簡単に世の中とつながることができる。

 これからは、衛星を介して、アフリカの砂漠地区など、どこであろうと、インターネットにアクセスでき、どこの誰でもが世界市場に参加することができるようにもなるだろう。

 さらに、クルマ、電車、飛行機などの移動手段の革新的なテクノロジを活用すれば、どこにでも割安な価格ですぐに行ける。Uberは空飛ぶクルマの構想まで考え始めていて、今や、遠隔地であっても、誰もが「近い」場所にいるのだ。

 テクノロジの進化がさらに加速し、AIが人類の知恵を超えるシンギュラリティの到来も近いとされている。

 しかし、テクノロジの進化が加速する一方で、人の固定観念や、これまでの“働き方”の文化を覆すことは中々難しい。

 日本は「田舎には仕事がない」「良い学校を卒業して、都会/東京の良い会社に就職する」のが一番という考え方が根付いている社会だ。

 次世代の若者や、若者を教育してきた親の世代の固定概念、考え方を覆すことはそう簡単ではない。「こんな山深い田舎で本当に大丈夫だろうか・ビジネスは成り立つのだろうか」という不安の壁を乗り越えるためにも、あらゆる分野で人を魅了する町づくりをすることが必要だ。

 そんな日本の社会で、どのようにして人を呼び込むのか。一歩一歩地道に頑張り、良い流れをつくらなければならない。

 日本の地方創生の一例として、つまものの“葉っぱ”で地域活性を図った徳島県上勝町、東京などの大都会からIT企業の誘致とサテライトオフィスを展開する徳島県神山町、自主的に給料をカットした町長や役場の“覚悟”の姿勢と、起業する移住者の連携で地域が元気づいている島根県隠岐諸島の海士町などの町が注目を集めている。

 筆者は徳島県上勝町で地域活性のプロジェクトに携わったり、現場体験をするインターンシップに参加、神山町へも何度も足を運び、各地の現場を体感しにいった。海士町へも行き、町長にインタビュー、移住者とも交流させてもらった。

 どこも共通している地域活性のポイントは、定量的に測ることができない現場にいるキーパーソンたちの事業継続のための長年の努力、それを実行する強い意志と根気強さが根底にある。

 各地域での長年の努力が、地域活性へと実り始めた。「ローマは1日にして成らず」「継続は力なり」を身にしみるほど経験している。

 先日、上勝町の“葉っぱ”ビジネスの株式会社いろどりの横石知二社長とは、石川県の能登で再開したばかり。“葉っぱ”ビジネスが始まって30年以上経つが、創業当時から事業に関わっている横石さんからは「今取り組んでいることをとにかく諦めずに続ける」という根気強さを感じる。スタートアップ時、「葉っぱを売る」ことに対して地元住民は大反対、一料亭で葉っぱの活用方法を調べている中、“スパイ”扱いされ暴行を受けたこともあった、と言う。そのようなスタートにも関わらず、30年間、諦めず葉っぱビジネスを継続している。

 社長の肩書だが、今でも、営業現場に足を運び、熱意をもって、“葉っぱ”や地元の特産品を販売している。

 内閣府からの補助の交付はあくまでもその一歩を歩みだしたに過ぎない。地方での起業や、地方創生は、そう簡単ではない。

横瀬
「よこらぼ」お披露目会に参加したITベンチャーから大手企業

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