後藤氏:平たく言うと、クラウドパックは次に当たるものを探しているみたいな感じです。われわれが得意なところと潜在的なニーズがあるところを、どうやって爆発させるか。
クラウドを始める前、私はひとりでクラウドを調査していました。その時はフリーランスで、とある顧客のRFP(Request For Proposal/提案依頼書)をつくる側に回った。そこでデータセンターをやることになった時、「データベースも入れさせてくれ」と言って導入し、普通にいろんな要件を立てていったのですが、最後に「見学できないとだめ」と言われてしまった(笑)。つまり、日本にロケーションがないとだめだというわけです。
だから、布教活動って大変なんです。私はエバンジェリストの肩書きを持ってますけど、駄目なところにいくら説明に行っても駄目です。ITにかかわる部分には全部クラウドができるのですが、たとえば銀行のシステムをつくる時にあのまま昔のやり方を続けていたら、われわれが行ってもどうにもならない。しかし一方で、FinTechは注目されている。トピックとしてはいいかもしれません。
あと、クラウドパックで言うと映像です。映像をネットで配信すると言っても、単なるストリーミングではない。日本は放送法があるので、放送とネット配信の映像のクオリティーが逆転しそうな時、放送局はどうするのか。そういうところにうまく差し込めたら面白いと思います。「クラウドが得意です」「いいツール知ってます」と言うだけでなく、そこを生かしたらすごい革命が起こりそうだな、と。そういうのを探しているというのが現状です。ですから、出すサービスが誰にも伝わらない時がある。あまり戦略的ではないんですが、いつも新しいポイントを探しています。
仕掛けていってうまくいくかどうかは、最短で2カ月ぐらいでわかります。われわれの場合、商品を出すというところがけっこうあやふやです。ラストワンマイルを埋めて「こんなかたちになりましたよ」と伝え、まずはAmazon Web ServicesのPRみたいなことをする。スマホでテストできるものは日本の端末にほとんどなくて、海外の端末ばかりですが、「それでもテストが楽になるでしょう」とか。公にしておけば、そこに注目する人がいるのではないかと。

クリエーションライン 代表 取締役社長、安田忠弘氏
安田氏:客観的に見て、見せ方がうまいなと思います。たとえば『バーチャル高校野球』とか、映像系のシステムを運用するためのサービスもある。知らない人たちが見て「すごい」と単純に驚くような見せ方をしている。だからうらやましいなと思います。
後藤氏:会社名とか中身だけでは勝負できないから、事例やデザインは重要です。
新たなSIビジネスに求められる戦略・組織
――新たなSIビジネスに求められる戦略・組織とはどのようなものか。たとえばセゾン情報システムズは新規事業に取り組んでいるがどんな考えからか。
小野氏:僕はずっとベンチャーを経営していたのですが、セゾン情報に入ってからSIの人たちの考え方・動き方を見た時にショックを受けました。工数積算・人月でやっているから、稼働・非稼働で見るんです。だから「人を出せばお金が入ってくるのに、うまくいくかどうかわからない新規事業の検討なんかしている人は非稼働じゃないか。そんなことをやってる暇があったら、こっちは1カ月後納期なんだから手伝えよ」と言ってくる。
つまり、先行投資に対してものすごく及び腰なんですね。「SIerは人月単価で、工数積算で」という考え方だと、当たるかどうかわからないことよりも確実にお金がもらえることのほうが優先されるので、先行投資ができなくなる。先行投資ができなくなると、チャレンジがまったくできなくなる。「確実にお金が入る手段があるのに、なんで当たるかどうかわからないことをやるのか」というわけです。
こうした工数積算の考え方から先行投資の重要度を高めていかないと、今までのSIのやり方を変えられない。先行投資すると言っても、新しいことを始めるのはすごく難しい。ちょっとやってみて失敗すると「ほれ見たことか。人月にしておけばよかったのに」と言われる。ベンチャーが難しいのと同じように、新規事業を始めることも難しい。