われわれは社内でしばしば「ペインポイントのホワイトスペースを探せ」と言っています。ペインポイントというのは身体に痛みがある部分、課題がある部分です。たとえば2015年の10月6~9日、ラスベガスで開催された「AWS re:Invent 2015」で、セゾン情報は世界9社のうちの1社として「Think Big」賞を受賞しました。なんでセゾン情報みたいなトラディショナルな会社が、そこでそんな賞をいきなり取ったのか。HULFTというファイル転送の製品はもともとメインフレームとかUNIXの転送に使うんですけど、AWSとオンプレミスを確実につなぐという使い方をしました。そういうポジショニングをしたらすごく当たって、賞もいただき、案件もすごく増えたのです。
このように、ものすごく伸びててきらびやかなクラウドの世界にも、「ここに課題がある」というペインポイントがある。そこにたいして誰かがポジションを取ってるのか。そこはブルーオーシャンなのか、それともすでに誰かがいるレッドオーシャンなのか。そうしたペインポイントを探し、そこがホワイトスペースかどうかを確認する。ホワイトスペースだったら、自分たちがそこで事業戦略をプロモートすることを検討する。そこではやったことのない人を入れてもしょうがないから、テクノベーションセンターのほうもサポートしながら事業戦略を一緒に考えていく。
セゾン情報システムズ常務取締役 最高技術責任者(CTO)小野和俊氏
大切なのはバイモーダルに見ることです。バイモーダルとは「2つの流儀」という意味です。モード1的な考え方だとROI(投資収益率)が重視されるので、基本的に人件費を払っている。その人たちはどのぐらいのリターンを生み出すか。人月はそれを確実に生み出すので、やりやすいんですよね。モード1だとバントでもいいから確実につなぐとか、そういう動き方になる。モード2の考え方は、どちらかというと「場外ホームランを打てば全部吹き飛ぶ(リターンがある)」という感じです。クラウドパック(アイレット)さんの「当たるところを探してる」というのは、完全にモード2ですね。
でも、モード2でやろうとすると「エビデンスを出してください」って言われる。新しい事業をやろうとしてるのに、そんなの出せるわけがありません。ベンチャーを立ち上げる時にも「Gartnerは何て言ってるんですか」と言う人がいますけど、調査会社が言う通りにしたら成功するんだったら、みんなそうしますよね。むしろ、調査会社が言った通りでは遅すぎるわけですよ。エビデンスを出せないと経営会議に通せないみたいな、そういう保守なスタンスだと絶対にだめです。そこはもうロジカルに行くしかない。最初のうちは「ドキュメントのページ数が足りないんじゃないか」とか「てにをはをチェックしたのか」とか言われる。そこを突破するのはけっこう大変なんですけど、突破しちゃえば後は比較的楽です。工数積算は先行投資、非稼働を許容する考え方を採り入れなきゃいけません。
安田氏:これはさっきの「売りは何なのか」という話にもつながりますよね。売りがあれば、人月で換算されない。うちはベンチャーなので、ただ「何でもできます。何か仕事をください」と言っても何も仕事が来ないし、何も始まらない。だから何か印象に残るもので覚えてもらうしかない。ユーザーさんにアプローチできる武器を、まずは1つだけ持ちましょう。そういうところからスタートして、それがひとつずつ増えているという感じです。
われわれはEucalyptusというのをやっていて、まず「Eucalyptusと言えば、あそこがやってた」というところからスタートしました。最初は人月になるかもしれませんが、やがてそれが売りになって、いろいろビジネスが広がってくる。指名で来るから単価がどうという話ではないし、「うちはこれで提供します」と言えば仕事につながっていく。そういうやり方をしています。
このEucalyptusは、社内に「やりたい」という人がいたのです。やっぱり人って大切です。ベンチャーは人がなかなか来ないのですが、そういう活動ををやってるとつながりができて、エンジニアが入ってきたりする。あと、それを面白いと思って来てくれる応援者が増えていく。そうやってビジネスが徐々に広がっていきましたね。その時に初めてセミナーをやったりしたんですよ。ノウハウもなかったんですがとにかくやってみて、6年ぐらいになるのですが。そうやって何か売りをつくらないと生き残っていけないという気持ちがあります。