研究現場から見たAI

何でも「人工知能」と呼ばれてしまうその理由--AIブームの功罪 - (page 3)

松田雄馬

2016-12-22 07:00

人工知能は人間を超えるのか

 「コンピュータが人間の知性を凌駕する」とはどういうことなのだろうか。

 そして、コンピュータが「人間を超える」ということは有り得る話なのだろうか。

 コンピュータが人間を超えるということは、人間以上の「知能」を持つ、「強い人工知能」が実現するということである。しかしながら、本連載の第1回「AIとは何か」で見てきたように、「知能」とは何なのかについてはよくわかっておらず、その定義すらなされていない。

 知能の定義は、なぜ未だなされていないのだろうか。

 これは、知能だけに限った話ではないが、「例外のない規則はない」という格言が指摘する通り、定義によって作ろうとする「知能」には、「例外」が生じることが避けられない。


 こうした「例外」を乗り越えて、「知能とは何なのか」をわれわれ人類が理解できない限りは、(少なくとも現代の科学技術では)「強い人工知能」は難しく、「人間を超えるコンピュータ」の実現は、難しいだろう。

 だとするとなぜ、「コンピュータが人間の知性を凌駕する」ということが言われ始めたのだろうか。

 「弱い人工知能」を含む「情報テクノロジ」の分野は、「18カ月で2倍でのスピードで成長する(半導体の集積率は18か月で2倍になる)」ことが常識になっている(ムーアの法則)。18カ月で2倍という計算を10年繰り返すだけで128倍になる。

 こうした背景から、米国の情報科学者であり、未来学者、投資家などの顔を持つRay Kurzweilは、近い将来に、コンピュータ(機械)の知性が人間のそれを上回る「特異点」に達し、2045年には、「コンピュータが人間の知性を凌駕する」という予測を立てているのである。

 もちろん、Kurzweil氏の指摘は、コンピュータが「18カ月で2倍でのスピードで成長する」という事実に基づくものであり「知能というものが何であるか」については触れていない。

 と言うよりも寧ろ、知能というものが何であるかがわかっていない以上、そこに触れることは(現状の科学では)できないのである。

 コンピュータの進化により、「弱い人工知能」は、現状よりも格段に進化するということは想像に難くないが、どんなにコンピュータが進化しても、それは、あくまでも進化した「弱い人工知能」なのである。

 現状の科学の延長線上では、「弱い人工知能」が、定義できない「強い人工知能」に化けるというのは、(少なくとも現状は)考えにくいであろう。

松田 雄馬(工学博士)
2007年3月、京都大学大学院情報学研究科修士課程修了後、2007年4月、日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所。無線通信の研究を通して香港にて現地企業との共同研究に従事。その後、東北大学と共同で、脳型コンピュータの基礎研究プロジェクトを立ち上げる。
2015年6月、情報処理学会DICOMOにて同研究により優秀論文賞、最優秀プレゼンテーション賞を受賞。
2015年9月、東北大学にて博士号(工学)を取得。
2016年1月、日本電気株式会社(NEC)を退職し、独立。
現在、ラオスをはじめとする発展途上地域における情報技術の現状を調査するとともに、そうした地域ならではの新事業を創出する企業の設立準備を実施している。

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