これまではコンピュータシミュレーションの規模を大きくして、より現実に近い状況を作り出して、理論の精度を高めていく方向で研究が積み上げられてきた。あまり大きくない規模での仮想的な実験では、現実とは異なり、思い通りの結果が得られなかったのだ。水から氷に固まる兆候は見える「ような」気がする。水から水蒸気へと変化する気配がある「ような」気がする。はっきりと判別することができなかった。
そんな理論的研究のアプローチに変化が見られる。シミュレーションの規模はそこそこに、その代わり大量のデータを駆使し機械学習の力を借りるという方法だ。こうした実験結果から、はっきりと水から氷、水から水蒸気と変わる兆候を読み取るという方向性で研究が進められている。
日本物理学会が発行する英文学術雑誌Journal of Physical Society of JapanのLetter(速報版)に、11月19日付けでまさにそのような方向性による先駆的な研究が報告された。
それは“Deep Learning the Quantum Phase Transitions in Random Two Dimensional Electron Systems”という研究だ。
タイトルにはいかにも難しそうな専門用語が並んでいるが、電気伝導しやすさなど半導体などの表面で何がおきているかを調べる「二次元電子系」での相転移現象を、深層学習を利用して調べるというものだ。画像や音声、テキストの識別によく使われる深層学習が、さらに物質の原理を解明するために使われ始めているのだ。
電子の状態を調べるための波動関数の情報を画像として扱い、その画像の識別に有効な畳み込みニューラルネットワークを用いて相転移の解析に利用したというユニークな取り組みだ。
電子の状態を調べるために利用される波動関数の情報を画像化して、畳み込みニューラルネットワークへの入力として利用する様子