最近では磁石の理論的模型として有名なIsing模型(量子アニーリングと呼ばれる最適化問題を解くアナログ量子計算でも利用されている)における相転移現象の解析で深層学習の効果をテストした例が報告されている。
まず前提として磁石にも水や水蒸気のように相転移が存在する。磁石の相転移は過熱によって起こり、磁石の状態から磁石ではない金属の状態になる。
その磁石の理論的模型であるIsing模型における細かい磁石の振る舞いを観察することで、全体として強い磁石になるか、ただの磁力を持たない金属となるかを調べるために長い時間のシミュレーションする必要があったが、深層学習を利用することで、ごくごく短時間のスナップショットを見るだけで十分であるということがわかった。
“Detection of phase transition via convolutional neural network”
図:論文“Detection of phase transition via convolutional neural network”より引用。左の図は単純な多層のニューラルネットワークを利用した場合。右の図は磁石の局所的な様子を精査する畳み込みニューラルネットワークを利用した場合。横軸のβというパラメータが温度に相当しており、縦軸がニューラルネットワークの結合の番号を示す。見えている模様はニューラルネットワーク自身の様子だ。さまざまな温度の磁石の様子を一瞬だけ見ることで学習をしたところ、畳み込みニューラルネットワークでは磁石の異常を検知した。まさに相転移である
機械学習入門 ボルツマン機械学習から深層学習まで 「機械学習を基礎から専門外の人でも普通に理解できるように解説し、最終的には深層学習の実装ができるようになるまでを目指した」(著 大関真之/オーム社:この11月30日に発売を開始した)
「鏡よ、鏡、鏡さん、世界で一番美しいのは誰?」
美しいかどうかを識別せよ、というタスクが与えられたら、それに必要なデータをかき集めれば良い。世の中にある顔画像を自動的に調べ上げて、顔画像に付随しているテキスト情報などから美しいと評価されているのかどうかを判別して、「美しさ」というものをデータから読み取れる範囲で学び取ることで、「それは鏡の前のあなたです」と答えてくれるかもしれない。そんな日を待ちわびるばかりだ。
ただその時注意したいのは、異なる文化圏で育てば価値観が大きく変わるように、データの海から決まる価値観は、われわれが思っているものと同じかどうかはまた別だ。鏡に言われたからって気にすることはない。ただ膨大なデータと向き合い、新しいアイデアを試すことで未来に一歩近づくのだ。その歩みを躊躇してはいけない。機械学習の扉を今こそ開くときだ。
- 大関 真之(おおぜき まさゆき) 東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授
- 博士(理学)。京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教を経て現職。専門分野は物理学、特に統計力学と量子力学、そして機械学習。2016年より現職。独自の視点で機械学習のユニークな利用法や量子アニーリング形式を始めとする新規計算技術の研究に従事。分かりやすい講演と語り口に定評があり、科学技術を独特の表現で世に伝える。