FinTechの実際

金融機関が「FinTechベンチャー恐怖症」になる理由 - (page 3)

小川久範

2016-12-14 07:00

FinTechベンチャーとの付き合い方

 ベンチャー企業の中でも、FinTechベンチャーは、金融機関にとって付き合いやすい存在である。FinTechベンチャーは、規制業種である金融業で事業を立ち上げようというだけあり、コンプライアンスに対する意識が高い。

 金融機関や大手企業出身の起業家であれば、意思決定が遅かったり、部門間でのあつれきがあったりといった金融機関の事情にある程度理解を示してくれるかもしれない。シニアな起業家が多いため、何かを依頼した場合、“大人”の対応をしてくれるだろうという安心感がある。

 ただし、相手はあくまでもベンチャーであり、起業家であるということは忘れないでおきたい。ベンチャーは、大手と比べて経営資源が乏しい。そして、数少ない経営資源のうち、最も貴重なものの1つが起業家の“時間”である。サラリーマンは、ベンチャーとのミーティングに何時間も費やし、特に成果が無かったとしても、給料日になれば給与が支払われる。

 ベンチャーの経営者は、成果があろうとなかろうと、従業員に給与を支払わなければならない立場であり、限られた時間の中で必死に結果を出そうとしている。起業家と交流するということは、その貴重な時間の一部を奪っているという認識を持つ必要がある。

 サラリーマンの時間に対する感覚は、起業家と比べて鈍いように思われる。起業家は、従業員がミーティングをする際、自分が給与を支払っている時間でどれだけ成果をあげたかを意識する。


 一方、サラリーマンの中には、意味もなく多くの部下を集め、目的すら定かではないミーティングを開催する者がいる。成果を無視した時間の使い方に慣れたサラリーマンは、他人の時間を奪うことに鈍感になる。起業家に対しても、目的がはっきりしないミーティングを申し込み、部下や下請けには、いくら残業しても時間が足りないほどの仕事を振る。このような時間の感覚で、経営資源が少ないベンチャーと付き合うのは、厳に慎むべきである。

 FinTechベンチャーとの協業においては、目的を明確にする必要がある。時々、自分たちは何にフォーカスすべきかとベンチャーに聞いてくる大手企業がいる。

 そのようなことはコンサルタントに対価を支払って相談するべきことで、無償でベンチャーに相談に乗って貰おうというのは虫のいい話である。他人の時間を浪費するという愚行を繰り返していると、やがてベンチャーコミュニティに悪評が広まり、ベンチャーから敬遠されることになるので注意したい。

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