FinTechの実際

金融機関が「FinTechベンチャー恐怖症」になる理由 - (page 4)

小川久範

2016-12-14 07:00

 また、意思決定権を持つ者が対応することも重要である。提携や協業の話では、ベンチャーからはCEOや取締役が出席するケースが多い。権限を持たない者が相手では、意思決定に時間がかかり、まとまる話もまとまらなくなってしまう。

 大手企業では検討に数カ月から半年を費やすのが当たり前でも、ベンチャーは稼ぎがなければその間に資金が枯渇してしまう。いくら魅力的な話であっても、ベンチャーには待てる時間に限界があることを理解する必要がある。スピード感を持って当たらなければ、ベンチャーとの協業は難しい。

 最後に、ベンチャーはパートナーであるとの認識を社内で共通のものとするべきである。新規事業開発部門がベンチャーを対等のパートナーとして協業を推進しようとしても、他部門はそのように思っていない場合がある。現業部門を紹介しても、質の低い下請けが来た程度の認識しか持たず、新規事業開発部門はベンチャーと現業部門との板挟みになる。

 また、契約においては、法務部が全てのリスクをベンチャーに負わせた下請け用の契約書を用意することがあるという。自社のリスクを最小限に抑えるためのものであるが、ベンチャーにそのようなリスクを負える訳もなく、協業のスピードが落ちるだけである。

 自らイノベーションを起こすことが難しい金融機関は、FinTechベンチャーにその役割を代行してもらおうと期待する。しかし、FinTechベンチャーは、金融機関のイノベーションの下請けではない。

 FinTechベンチャーとの協業は、FinTechベンチャーの成長のために、自社のリソースを最大限に活用してもらうというスタンスで行うべきである。

 

 その結果、FinTechベンチャーが大きく成長し、自社にとって有益な存在になったのであれば、それまでの友好関係を生かし、正当な対価で買収すれば良い。

 金融機関は、FinTechベンチャーから何を得られるかではなく、FinTechベンチャーに何を提供できるかを考えなければならない。

小川久範
日本アイ・ビー・エムを経て2006年に野村證券入社、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーへ出向。ICTベンチャーの調査と支援に従事する。560本以上の企業レポートを執筆し、数十社のIPOに関与した。2016年みずほ証券入社。FinTechについては、米国でJOBS法が成立した2012年に着目し、国内スタートアップへのインタビューを中心に、4年間に亘り調査を行ってきた。2014年10月には、国内初のFinTechに関するレポートを執筆した。FinTechエコシステムの構築を目指す「一般社団法人金融革新同友会FINOVATORS」副代表理事。

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