激動の事業環境を勝ち抜くネットワークインフラの新常識--ZDNetセミナーレポート

齋藤公二 (インサイト)

2016-12-22 07:45

 デジタル変革やIoT、セキュリティが重要になるなか、IT担当者があらためて注目しはじめたのがネットワークのあり方だ。これまでのような対症療法的なネットワーク構築から脱却し、ビジネスを駆動させるネットワークインフラはいかなるものか。

 11月22日、「デジタル変革、IoT、セキュリティ 激動の事業環境を勝ち抜くネットワークインフラの新常識」をテーマにしたZDNet Japan × TechRepublic Japanネットワークインフラセミナーが開催された。

基調講演:超高速・短遅延な基盤に生まれ変わり活用が進む「SINET5」

 基調講演には、国立情報学研究所(NII)のアーキテクチャ科学研究系教授で、学術ネットワーク研究開発センター長や学術基盤推進部長を兼務する漆谷重雄氏が登壇した。「超高速ネットワークインフラが可能にする最先端研究教育環境」と題し、2016年4月から本格運用を開始した全都道府県を100Gbpsで結ぶ学術情報ネットワーク(SINET5:サイネットファイブ)の取り組みを紹介した。


漆谷重雄氏
国立情報学研究所(NII)
アーキテクチャ科学研究系教授
学術ネットワーク研究開発センター長
学術基盤推進部長

 SINETは、NIIが構築運用している日本全国の大学や研究機関などが参加する情報通信ネットワーク。大型実験施設やスパコン、ビッグデータ分析、MOOCの運用基盤、国際連携基盤として利用されている。2015年までSINET4が運用運用されてきたが、データ量が増大するなか、国内回線40Gbps、国際回線10Gbps×4の帯域とどまっており、先進諸国が100Gbpsへ移行するなか遅れが目立っていた。

 そこで、2015年から新しい基盤としてSINET5の構築を進め、2016年4月から本格運用を開始した。特徴は、「国内、国際ともに100Gpbsへと高速化させたこと、ネットワークサービス機能を拡充させたこと、全経路の冗長化や3レイヤ構成により性能、信頼性、柔軟性を確保したこと」(漆谷氏)などだ。

 国内組織としては、全国立大学86校、公立大学74、私立大学361、短期大学70、高専55校、大学共同利用機関16、その他182組織が参加。回線は、米国際線と100Gbps+10Gbps、欧州線と10Gbps×2、アジア線と10Gbpsで直結しており、世界各国の学術組織との高速ネットワークでの連携が可能になっている。

 ネットワーク構成は、大学などの組織をつなぐIP/MPLSレイヤ(ルータとVLANパスで構成)と光伝送レイヤ(伝送装置ROADMと光ファイバ、波長バスで構成)の中間に、パケット伝送レイヤ(伝送装置MPLS-TPとMPLS-TPパスで構成)を置くという3層構造で構成した。

 「各ノード(組織)間をメッシュ状に接続し、常に最短経路のMPLS-TPバスで接続することで遅延を最小化。さらに、最短経路とは別のMPLS-TPバスでも接続し、障害時は即時に切り替える。新しいネットワークサービスも両端のノード設定だけで導入が可能になるなど、柔軟性も高まった」(漆谷氏)

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 こうした特徴により、本格運用以降、利用が急速に進んでいる状況だ。開通式では高速回線を生かしたコンテンツとして順天堂大学が8K映像を使った遠隔手術の様子のデモを行った。これまでにも、高エネルギー研究の分野で、筑波のBelle実験や、神岡のスーパーカミオカンデ実験、ヒッグス粒子の発見に向けたLHC(スイス)のATLAS実験での大容量データ転送やセキュアな通信環境提供に活用された。

 HPC分野では、理研や計算科学研究機構、各大学などが保有するスーパーコンピュータやストレージを接続し、超高速に全国で共同利用することに貢献した。

 また、核融合研究での研究データを国際間組織で高速かつ安全に転送している事例や、地震研究で、地震観測データを全国の施設にマルチキャスト転送したり、リアルタイム津波浸水被害予測を行ったりするケースもある。

 天文分野では、各国の電波望遠鏡を結び、巨大な仮想望遠鏡を形成し、天体の高精度観測や地殻変動の観測に役立てている。JAXAのはやぶさ2のトラッキングデータも欧州宇宙機構からSINET経由で日本に送られていた。

 このほかにも、MOOCや大学の遠隔講義、「胎児心エコー」の遠隔配信、大学病院の医療情報のバックアップ、仮想大学LANサービス、L2VPN/VPLSをオンデマンドで提供するサービス開発などに活用されている。

 漆谷氏は「民間企業でも共同研究や大学などへのクラウドサービスの提供でSINETに接続できます。多くの組織がSINETに接続し、連携可能になっています。超高速・短遅延性を生かした新しいネットワークの使い方、IoT時代に向けた各種実験、クラウドサービス、オープンサイエンス向けサービスなど、産学連携のための基盤として利用してほしい」と述べた。


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