米Hewlett Packard Enterprise(HPE)が、これまでクラウド基盤の中核ソフトウェアとして注力してきたIaaS向け「OpenStack」とPaaS向け「Cloud Foundry」関連の技術および人材を、独SUSEに売却する契約を結んだ。この動きは、HPEがクラウド事業から完全に撤退するようにも見て取れる。果たしてどうなのか。
HPEはクラウド事業から完全に撤退するのか
両社の契約締結については、SUSEが11月30日に発表した。SUSEはHPEから買収するOpenStackとCloud Foundryの資産を自社のIaaSおよびPaaSとして取り込み、従来から展開してきたLinuxをはじめとしたオープンソースソフトウェア(OSS)製品群の拡充を図る。
この動きで気になるのは、HPEのクラウド事業の行方だ。同社は今年1月にパブリッククラウドにおけるIaaS型サービスの提供を終了したものの、その後はOpenStackとCloud Foundryベースのプライベートクラウドや、それとオンプレミス、あるいは他社のパブリッククラウドと連携させたハイブリッドクラウドの構築・運用を中心に展開していくとしていた。
今回の動きでは、その中核となる資産をSUSEに売却する形となる。これはすなわち、HPEがクラウド事業から完全に撤退するようにも見て取れる。この点についてHPEの関係者に聞いてみたところ、「HPEはSUSEとクラウド事業において協業を図っており、OpenStackおよびCloud Foundryについては今後SUSEから供給を受ける形で引き続き事業を展開していく」との答えが返ってきた。
確かに、今回の両社の契約内容には、HPEがSUSEをLinux、OpenStack、Cloud Foundryに関する最優先オープンソースパートナーに指名したことが明記されている。
HPEがOpenStack資産を売却する3つの要因
では、HPEはなぜOpenStackおよびCloud Foundryの資産をSUSEに売却することにしたのか。関係者の話などから、次の3つの要因が浮かび上がってきた。
1つ目は、HPEの事業構造改革の一環であることだ。HPEは2015年11月に従来のHPから分割した後、ハードウェアを軸としたインフラ事業に注力すべく、サービスやソフトウェアの事業を分離してきた。
中でもソフトウェアについては、英ソフトウェアベンダーのMicro Focusと統合する計画で、HPEが統合新会社の株式50.1%を保有するという。統合はHPEの2017会計年度(2017年10月期)後半に完了する予定だが、今回のOpenStackおよびCloud Foundryの資産のSUSEへの売却もソフトウェア事業分離の一環といえる。
2つ目は、SUSEとのパートナーシップだ。Linuxディストリビューター大手のSUSEはOSS専門企業であることから、HPEとしてはいわば“餅は餅屋に任せる”形でパートナーシップを結んだほうが、資産の有効活用につながると判断したようだ。しかもMicro FocusがSUSEの親会社であることから、SUSEは実質的にHPEのOSS推進部門としての役割を担うようになるとみられる。
そして3つ目は、米Microsoftとのパートナーシップだ。HPEはここにきてクラウド事業においてMicrosoftとの提携を一段と深めている。最近では、Microsoftのパブリッククラウドサービス「Microsoft Azure」をHPEの顧客向けに推奨パブリッククラウドとする一方、Microsoftはハイブリッドクラウド向けのインフラにおいてHPEを推奨パートナーにするといった協業も打ち出している。
つまり、HPEとしてはMicrosoftとSUSEとのパートナーシップをユーザーニーズに応じて使い分けできるようにしようとしているものとみられる。
こうしてみると、ハードウェアを軸としたインフラ事業に注力するHPEのクラウド事業に対するスタンスがにわかに見えてきた気がする。