こんにちは。Opsの味方・真壁徹です。
前回はインフラ技術者の評価について書きました。モノ、特にコスト削減の成果に偏重した評価でなく、どれだけ人に貢献したかで評価してもらえるよう企んでみませんか、という提案です。しかし、それが通じない環境があることも理解しています。人の認識や姿勢を、他人が変えることは難しい。そして、ビジネスリーダーや上司をボトムアップで選ぶことはできません。
「自分が正しいと思うことをしたいなら偉くなればいい」という意見はごもっとも。でも偉くなってから「あれ、私は技術者でありたかったのに」とコレジャナイ……な後悔をしたくはないものです。また、そもそも評価されないのにどうやって偉くなるのだろうという疑問もあります。
環境を変えようと努力して及ばなかったのなら、思い切って職種や立場を変えたほうがいいかもしれません。そして、その機会は急に訪れます。すでにその資質や覚悟を持っている場合はいいですが、そうでないケースもあります。プロサッカー選手が急にボールが飛んできてもシュートできるのは、そういう練習とイメージトレーニングを山ほどしているからです。
そこで今回は、インフラ技術者が「キャリアにおいて判断を迫られるかもしれないこと」をテーマにします。事前に準備しておけば、環境を変える急なチャンスが飛び込んできたとき、正しく対処できるでしょう。
なお、これから書くことはすべて私自身が実際に経験、検討、または判断したことです。他人事ではありません。
インフラ or アプリ
インフラ技術者が業務アプリ開発に軸足を移すケースは多くないと思いますが、ジョブローテーションなど、まったく無いことはありません。また、業務アプリではなく、インフラをコントロールするアプリを作る機会は増えてきています。ユーザーとして自動化を進める場合はもちろん、狭き門ではありますが、クラウドベンダー、サービスプロバイダーの中の人として、その基盤アプリを作る仕事もあります。インフラの道を突き詰めた結果、そこにたどり着く可能性はあるでしょう。
ですから、インフラ技術者でも常にアプリの勉強はしておいたほうがいい、というのが私のスタンスです。時間がなければ年に2、3回でも、話題になっている言語やフレームワークでHello Worldを書くだけでいい。将来のためだけでなく、アプリ開発者の視点を得ることは今の仕事にも役立つでしょう。自分が作っているインフラの上で動いているものがさっぱりわからんというのも寂しい話ですし。アプリ開発者の気持ちを知り、共感する。支援するアイデアを思いつく。「わたしたち」「もしかして」「DevOps」……なんてパターンを見たこともあります。
ウェブでの情報共有文化、オープンソースソフトやクラウドの普及で、Hello Worldを動かすまでの時間と労力はとても少なくなっています。新しい技術を学ぶために高額な製品やトレーニングが必要だった10年前とは大違いです。1時間単位で、時間当たり数円でサーバが借りられる時代ですし、広大なウェブにはサンプルコードが山ほどあります。
もし気に入ったオープンソースプロジェクトがあれば、ちょっとしたバグ修正や翻訳、ドキュメント作成で参加してみるのも手です。独学では学びづらい、チームでの開発を経験することができます。GitHubがそのハードルをかなり低くしました。
構築・運用寄り or 営業寄り
会社である程度経験を積むと打診されがちで、転職の契機になるケースが多いのが、営業寄りの仕事です。ITの進化は激しく、多様化しており、営業担当者を支援する技術者の必要性は増すばかりです。営業寄りの技術者の肩書はさまざまですが、技術営業、プリセールス、ソリューションアーキテクトなどと呼ばれます。
システム開発や運用に従事するのと比べ、接するお客様やプロジェクトの数は多くなり、経験の幅は広がります。また、ビジネスに対する貢献が売上で数値化されやすいため、ベースの報酬は高めになるかもしれません(もちろんリスクとのトレードオフですが)。一方、個々のシステムへの関与は浅くなります。責任のない立場では、お客様のシステムを触れません。
営業寄りの仕事では、利害関係者に対する説明能力が強く要求されます。お客様のビジネスと課題をどう理解しているか。提案する技術の本質は何か。その技術で課題をどう解決できるのか。それは現実的か。場合によっては手を動かして実証する。そんな能力が必要です。
プレゼン資料作りや机上計算ばかりしていると、あっという間に技術力は低下します。手を動かした実感が薄くなると、説得力も衰えるものです。自ら時間を作って学習しないと、すり減っていく仕事でもあります。
私は現在、ソリューションアーキテクト、つまり営業寄りの仕事をしていますが、アンケートにありがちな「あなたのお仕事は」という質問に、「営業」ではなく「技術者」と回答します。そう回答した以上は、技術のプロとして勉強を続けよう、と自分を追い込んでいます。