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AI開発に実用される量子コンピュータ--人工知能研究を加速 - (page 5)

大関真之

2016-12-21 07:00

 D-Waveマシンの計算原理である「量子アニーリング」(徐冷、焼きなまし)も自然界のルールに従うものである。量子力学に基づく計算のために、強い横磁場をかけて人工的な状態を作り出し、そこから最適な解答を求める計算を行うために横磁場をだんだんと弱めていく。その過程が「ゆっくり」していると、計算を行うチップ部分が「冷えて」しまうのだ。

 現状ではD-Waveマシンの動作は、この「冷えて」しまう早さに比べてゆったりとしているため、最適な解を確実に取り出すことができない(10マイクロ秒程度でわれわれのスケールに比べたら非常に高速だが)。

 さて極低温の環境下にあるために冷えてしまったチップだが、しかし冷えるということは自然の摂理に従っている状態というわけだ。もはや計算のために用意した人工的な状態とは異なる。

 この状態の結果はボルツマンが発見し、統計力学が示す「無数の粒子が集まると特別な傾向を持つ」というルールに従っていることがわかってきた。つまりD-Waveマシンから出力される「良い解」の傾向を調べると、無数の粒が従う特別な傾向を示すものと同様であるということだ。

 それではボルツマン機械学習で必要とされる、実際のデータとの傾向を比較するのに必要な「擬似的なデータ」を高速に次々に生成するためにD-Waveマシンを利用すれば良いのではないかということになる。

 最適な解を確実に見つけるという当初目標にはまだまだ道のりは長いが、現状できているマシンをうまく活用する道筋を見つけ出したのだ。


実現は早くても21世紀後半と言われていた「量子コンピュータ」が突然、商用マシンとして販売が開始された。作ったのはカナダのメーカーだが、その原理を考え出したのは日本人研究者
画期的な量子コンピュータの計算原理、「量子アニーリング」を発案した本人が語る。 西森秀稔(著)大関真之(著) 量子コンピュータが人工知能を加速する

 テクノロジについてあまりに精密さと完成度を求めすぎて、新しいことが生み出せないでいるこの時代に、このようなエピソードは痛快である。

 「失敗」をしたプロジェクトに対して、ストーリーを変えて新しい成果を導いた、と言ってこられても、「それはすごい」と素直に言えるだろうか。失敗を恐れず、どんなことでも真っ直ぐに進み、突き抜ける。そういった思い切りの必要性をこの量子アニーリング研究の最前線に身を投じてみるとひしひしと感じる。

 日本人が発案した「量子アニーリング」の技術を実現したカナダのベンチャー、そしてそれを活用しようと多くのチャレンジが渦巻いているGoogleやNASAの量子コンピュータ導入といった北米の活況

 その様子を、指をくわえて待つほど日本人は愚かではないはずだ。そんなエキサイティングな世界が、量子コンピュータと機械学習をはじめとする人工知能開発の交差点にはあるのだ。

大関 真之(おおぜき まさゆき)  東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授
博士(理学)。京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教を経て現職。専門分野は物理学、特に統計力学と量子力学、そして機械学習。2016年より現職。独自の視点で機械学習のユニークな利用法や量子アニーリング形式を始めとする新規計算技術の研究に従事。分かりやすい講演と語り口に定評があり、科学技術を独特の表現で世に伝える。

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