実は、この点については、共創ラボの発足を発表した2月の記者会見でも課題として挙がっており、それを受けて2月18日掲載のコラム「IoTベンダーは費用対効果を示せ」で取り上げた経緯がある。これに対し、沼本氏は冒頭のように発言した後、次のような見解を述べた。
「IoTはさまざまなビジネスプロセスがデジタル化する現象であり、それだけでROIを示すのは難しい。具体的なユースケースにおいて生産性という形で効果は表れるようになる。それもさることながら、IoTはROIを論議する前に、それぞれのビジネスモデルを変革する存在になり得ることに注目すべきだ。多くのビジネスにおいて、これまで存在しなかったサービスが続々と生まれる可能性がある。ユースケースごとに生産性を示せるようにすることは大事だが、IoTがあらゆるビジネスにもたらすインパクトの大きさは計り知れない。そうした認識のもと、IoTの可能性を追求していきたい」
ROIは重要だが、そればかりに執着していると、IoTがもたらす大きな変化を見逃すことになるということか。印象深い質疑応答だった。
「われわれの研究開発の原点は“ENIAC”にある」 (日本ユニシス 羽田昭裕 総合技術研究所長)
日本ユニシスの羽田昭裕 総合技術研究所長
日本ユニシスが先ごろ、同社グループの研究開発を担う組織である総合技術研究所の取り組みについてメディア向けに説明会を開いた。羽田氏の冒頭の発言はその説明会で、同研究所の研究開発におけるルーツに言及したものである。
羽田氏によると、日本ユニシスが2006年1月に設立した総合技術研究所は、高い専門性と積極思考をベースに、「データを価値ある情報に進化させるソフトウェア」「企業価値向上を支える情報システムの方法論とアーキテクチャ」「社会プラットフォームを支える技術」の3つを提供することをミッションとしている。現在取り組んでいる研究テーマは、図のように6つの分野からなる。
日本ユニシス総合技術研究所が取り組んでいる研究テーマ
説明会ではこれらの研究テーマの中から、「デザイン思考によるサービスデザイン」「衛星データ活用による太陽光発電量予測」「IoTを含むシステムの品質検証」「経験を知識化するメタデータの研究」「未来環境の創造と実現」といった5つの研究内容が紹介された。
さらにこれらに加え、「林業の発展をICTで支援」「メッシュ型地域ネットワークのプラットフォーム技術」「VR(仮想現実)ヘッドマウントディスプレイの活用」「データで紡ぐ未来社会」「2016年版都道府県幸福度ランキング」「量子プログラミングの基礎」「2020年のデータドリブン・プラットフォーム」といった7つの研究内容も展示形式で紹介された。
また、同研究所では今年、「ENIAC― 現代計算技術のフロンティア―」と題した翻訳本も出版した。1946年に開発された世界最初のコンピュータ「ENIAC(エニアック)」は、米Unisysの歴史に刻まれている。その原書の翻訳にも携わった羽田氏が、説明会で翻訳本を紹介しながら語ったのが冒頭の発言である。
羽田氏はENIACについて、「当時からさまざまなシミュレーションに使われ、それを基に現実の問題解決を目指していた。その手法は今も受け継がれている」と、研究開発の原点である想いを語った。
実は、同研究所がメディア向けに研究内容を披露したのはこれが初めてだ。「まずは何をやっているか、知ってもらおうと考えた」と羽田氏。同社の最先端技術をもっと広く発信していくためにも、今後は毎年定期的に披露してもらいたいものである。