ITは「ひみつ道具」の夢を見る

知的存在としてのIT(前編)--テクノロジはクリエイティブを担えるか - (page 3)

稲田豊史

2016-12-24 07:00

 パクリの件はいったん脇におくとして、ある程度フォーマットが決まっている文章の自動作成は、今の技術でほぼ実現できそうだ。例えば、会議の議事録や国会答弁の記録、記者会見などの報道発表などである。

 会議も会見もその場に足を運ぶ必要はない。動画と音声さえ入手できれば、現在の音響学習技術を駆使したり、深層学習(ディープラーニング)を応用した「文字起こしソフト」を活用したりすることで、発表内容は全文、テキスト化できる。

 また、以前の議事録や登場する専門用語などをAIに過去記事検索などで当たらせ、形態素解析、構文解析、意味解析を実行するのも有効だ。そうすることで重要キーワードが何か、要点は何かのあたりをつけられる。

 こうなれば、AIが全文テキストをサマリすることは容易だ。ハイライトとなる発言者や発表者のコメントをいくつか引っ張って挿入し、指定の文字数で仕上げる。そもそも議事録や会見記事のお手本はネット上に落ちているので、AIが「それっぽく(模範的に)」まとめるのは、たいして難しくない。

 国会答弁や会見中の写真は動画から写りの良いものをAIが判断してキャプチャすればよいし、音声データと顔認識機能をかけ合わせれば、列席者の肩書と氏名を特定するのはたやすい。

 これら一連の作業をボット化することができれば、人間はいらなくなる。「もはん手紙ペン」を握る要領で、必要な素材をAIにぶち込むだけだ。それで模範的美文が自動出力される。

 さて、ここに「模範的美文の作成代行」で思い出す、1本の映画がある。第86回アカデミー賞で5部門にノミネートされて脚本賞を受賞した「her/世界でひとつの彼女」(2013年、監督:スパイク・ジョーンズ)だ。技術者がAIと人間の関わりについて考える際、絶対に観ておくべき作品だが、なかでも注目したいのは、主人公の職業がいみじくも「手紙の代筆屋」であるという点である。

 後編では同作を中心に、テクノロジが「人格」を帯びる可能性について考えてみたい。

  • 脚注
  • 【*1】てんとう虫コミックス 第17巻「週刊のび太」(「小学六年生」1978年5月号掲載)に登場

    【*2】てんとう虫コミックス 第24巻「アニメ制作なんてわけないよ」(「小学六年生」1980年6月号掲載)に登場

    【*3】てんとう虫コミックス 第23巻「もはん手紙ペン」(「小学六年生」1979年12月号掲載)に登場

稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。
著書に『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。
手がけた書籍は『ヤンキー経済消費の主役・新保守層の正体』(原田曜平・著/幻冬舎)構成、『パリピ経済パーティーピープルが市場を動かす』(原田曜平・著/新潮社)構成、評論誌『PLANETSVol.9』(第二次惑星開発委員会)共同編集、『あまちゃんメモリーズ』(文芸春秋)共同編集、『ヤンキーマンガガイドブック』(DUBOOKS)企画・編集、『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)編集など。
「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆中。(詳細

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