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ITは「ひみつ道具」の夢を見る

知的存在としてのIT(後編)--テクノロジは人格をもつか - (page 3)

稲田豊史

2016-12-25 07:00

 しかし、ダニエル・キイスが1966年に長編版として発表したSF小説の名作「アルジャーノンに花束を」には、こんな一節がある。脳手術によってみるみる知能が上がっていく主人公チャーリィに対して、チャーリィが恋する女性教師アリスはこう言うのだ。

 「もしあなたが知能的に成熟したら、あたしたち、おたがいに意思の疎通ができなくなるわ。情緒的に成熟したら、あたしを必要とさえしなくなるわ」(小野美佐・訳)

 ここで頭をよぎるのは、“低位の”セオドアを振った“上位”のサマンサだ。もちろん疑問に思う方もおられよう。「知能的・情緒的に成熟した存在とは、むしろ心の距離が遠くなるって?そんなバカな!」


初代AIBO『ERS-110』(1999年)

 しかし考えてもみてほしい。なぜ、おっちょこちょいで出来の悪いポンコツロボットであるドラえもんは、この国でこんなにも長く愛されているのか。今となってはおそろしく単純な「ロボット」であるソニーのAIBOが、なぜメーカーサポート終了後も有志による修理対応が途切れないのか。

 どうも、人間が魅了されるのは知性の高さそのものではないらしい。知的で有能な秘書イコール最良のパートナーとは限らないのだ。

 「her/世界でひとつの彼女」のラストは示唆に富んでいる。サマンサに振られたセオドアが逡巡の末、最後に選んだ女性は、「大学時代に一瞬だけ付き合った、平凡で才能のないドキュメンタリー作家」だ。

 ITの申し子たるサマンサは愛の対象ではなく、愛を支援する役割を果たしたにすぎない。ハリウッド映画に使われるCGが芸術そのものではなく、物語を支援する役割を担っているにすぎないのと同じように。

 「創造」と、それを支援する「技術」は、つとめて健全に「主」と「従」であるべきだ。それを逆にしようとするから間違いが起こる。ある種の「技術」の産物である背景パクリやキュレーション記事の半自動作成を、われわれは「創造的(クリエイティブ)」とは呼ばない。そういうビジネスに得意気に携わっている人間を、決して「クリエイター」とは呼ばないように。

  • 脚注
  • 【*1】てんとう虫コミックス 第28巻「しずちゃんの心の秘密」(「小学六年生」1982年10月号掲載)に登場

    【*2】てんとう虫コミックス 第2巻「出さない手紙の返事をもらう方法」(「小学六年生」1974年2月号掲載)ほかに登場

稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。
著書に『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。
手がけた書籍は『ヤンキー経済消費の主役・新保守層の正体』(原田曜平・著/幻冬舎)構成、『パリピ経済パーティーピープルが市場を動かす』(原田曜平・著/新潮社)構成、評論誌『PLANETSVol.9』(第二次惑星開発委員会)共同編集、『あまちゃんメモリーズ』(文芸春秋)共同編集、『ヤンキーマンガガイドブック』(DUBOOKS)企画・編集、『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)編集など。
「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆中。(詳細

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