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AIで「がん治療用ワクチン」を開発—NECが創薬の新会社

取材・文:阿久津良和 構成:羽野三千世

2016-12-19 18:48

 NECは12月19日、人工知能(AI)を活用した新しいヘルスケア事業として、がん治療用ワクチンの開発を担う新会社「サイトリミック」の設立を発表した。


左から、SMBCキャピタルソリューション 専務取締役 山口正弘氏、三井住友銀行 執行役員 ホールセール統括部長 関口栄一氏、ファーストトラックイニシアティブ 代表取締役 木村廣道氏、サイトリミック 代表取締役社長 土肥俊氏、NEC 取締役 執行役員常務 兼CMO 清水 隆明氏、NECキャピタルソリューション 代表取締役社長 安中正弘氏、国立大学法人山口大学 学長 岡正朗氏

 NECは1998年から、機械学習を活用し、がん治療用ワクチン候補となるペプチド(各種アミノ酸が十数個結合した分子)を効率的に発見する「免疫機能予測技術」によって、肝細胞がんや食道がんなどの治療に利用する「がん治療用ペプチドワクチン」の研究開発を続けてきた。2008年には高知大学と臨床研究を開始、2013年からは山口大学・高知大学との臨床実験を行っている。

 その研究結果や臨床実験を通じて、日本人の約85%を含む複数の白血球(HLA)型に適合し、免疫を活性化するがん治療用ペプチドワクチンが確認できたという。このワクチンの実用化に向け、治験用製剤の開発や非臨床・臨床実験、製薬会社との事業化検討を行うサイトリミックの設立に至った。

 がん治療には、抗がん剤や手術、放射線といった治療法があるが、どれもQoL(Quality of Life)を低下させてしまう問題がある。そのため第4の治療法として注目を集めているのが免疫療法だ。がんによってブレーキが掛かった免疫の攻撃力を回復させる治療法として、「チェックポイント阻害剤」などは一部商品化が進んでいるものの、今回NECが取り組んだのはワクチンの領域である。

 サイトリミックの代表取締役社長に就任する土肥俊氏は、2000年からNECのバイオIT事業開発を統括してきた人物だが、免疫ががん細胞を攻撃する仕組みを次のように説明した。

 がんの原因タンパク質となるがん抗原の存在を樹状細胞が検知すると、通常はがん化した細胞を攻撃するキラーリンパ球へHLA分子を通じて命令を発する。その結果「健常者でも1日5000個程度のがん細胞が生まれるが、この免疫監視機能を備えているためがんにならない」(土肥氏)。だが、何らかの理由でがん細胞がキラーリンパ球の活動にブレーキを掛けてしまう。

 そこにブレーキを解除するためのチェックポイント阻害剤と、免疫賦活剤となるペプチドワクチンを投薬することで、「これまで治療方法がなかった患者に新たな手段を提供できる」としている。


今回発見した2つのペプチドを持つ土肥氏

 だが、肝がんに有効なペプチドを見つけ出すには、がん抗原化したタンパク質や、免疫を活性化するペプチドの発見が欠かせない。さらにペプチドの効果を活性化する免疫賦活剤の組み合わせも必要となる。

 がん抗原の発見は山口大学で2007年から行われている肝がんを対象とした樹状細胞治療法の臨床試験で解決。ペプチドおよび免疫賦活剤の組み合わせは2013年から開始したNEC、山口大学、高知大学の共同研究で発見したという。それでも問題が解決した訳ではない。

 がん抗原化したタンパク質のアミノ酸配列は840個の文字列が並んだ状態だが、そこに合致するHLA分子は白血球型によって異なる。従来は約5000億パターンの検証を、予測と実験を1つ1つ繰り返していた。その期間は1種類につき数カ月にもおよぶ。さらに結果が出なければ始めからからやり直しとなる。

 NECは、この予測部分に免疫機能予測技術を適用。未実験の結合予測を行った結果、研究者の実験は200パターン程度で、93%の結合予測精度まで高まったという。

 なお、NECとサイトリミックは、ファーストトラックイニシアティブ、SMBCベンチャーキャピタル、NECキャピタルソリューションの3社を引受先とするサイトリミックの第3者割当増資を実施することで合意。サイトリミックの事業計画については「持ち分適用会社のため、当面の間は売り上げ計画を用意しない」(NEC 取締役 執行役員常務 兼CMO 清水隆明氏)としている。


がん免疫治療のメカニズム

 今回の取り組みについて関係者は、「AIと医療の相性が非常によい。患者の治療と日常生活の両立を目指す」(清水氏)、「革新的なワクチンの臨床開発を通じて、がんを克服する社会の実現に貢献する」(土肥氏)と語る。出資側も「日本を代表する新たなベンチャー企業を全力で支援する」(ファーストトラックイニシアティブ 代表取締役 木村廣道氏)、「オープンイノベーションで日本を活性化していきたい」(三井住友銀行 執行役員 ホールセール統括部長 関口栄一氏)、「社会的課題に立ち向かうベンチャービジネスを支援するのは本望。成果に期待したい」(NECキャピタルソリューション 代表取締役社長 安中正弘氏)と述べている。


NECが取り組んできた創薬分野の歩み

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