また、銀行間の送金に関しても動きがありました。仮想通貨系の決済サービスを提供しているSBI Ripple Asiaが、「国内外為替の一元化検討に関するコンソーシアム」を立ち上げたのです。現在は、最初の枠組みを決めるメンバーを集めた段階のようです。これまで、銀行間での送金には全銀ネット(全国銀行資産決済ネットワーク)が使われており、これらが結果的に銀行間の送金では200円程度の手数料がかかる状態を生み出しています。
これに対して、仮想通貨などを使うことで、より安価に送金ができるのではないかということを検討しているようです。米国には、安価な銀行間送金の仕組みがあり、16円くらいで送金ができると言われています。銀行間送金が16円でできるとすれば、買い物の“お釣り”で投資できる「お釣り投資」など、いろいろなことが可能になるでしょう。例えば、Amazonの支払いで手数料が下がれば、振り込みを利用する人が増えるはず、というようにマーケットはまだまだ広げられると考えられます。
米国と比べると日本は、Fintechにおいて融資が大きな市場にはなっていません。しかし、決済に関して店舗での決済に加えて、Suicaや銀行間での決済もあります。そういう意味で、銀行間送金の分野は新しいインフラをもたらせる可能性があると考えています。
さて、2016年初の予想では、特定のテクノロジへの期待と、その時間経過による変化を説明する米Gartnerの「ハイプサイクル」理論に基づき、2015年に盛り上がりを見せたFinTechは、2016年は盛り下がると予想していました。しかし、盛り上がりは引き続いています。
理由は参加者が増えたことです。金融についての法律を変えるべき頻度が上がっており、それに伴って制度を検討するための会議の回数が増えています。毎年のように小さな想定が変わっていくため、従来なら2~3年に1度で十分だった改正が、毎年細かいメンテナンスをするかのように、必要になっているのです。注目される機会が多いのは良いことだと認識しています。
9月末にリリースされ、米Appleの最高経営責任者(CEO)、Tim Cook氏が山手線の新宿~原宿間を乗車したことでも話題になったApple Payも、2016年の衝撃的な話でした。先日Apple Watchをつけて地方出張に行ったのですが、羽田までApple PayでSuicaで支払い、航空券をWalletアプリで表示して飛行機に乗り、現地でも交通系ICカードであればApple Payを使い、また飛行機で羽田に帰ってくる……というように、これだけで地方出張がすべて賄えたのです。
強みは非接触型というところにあります。クレジットカード社会は確かにキャッシュレスですが、カード決済にはサインや暗証番号の入力や控えの発行が伴います。しかし、Apple Payは端末だけで決済を完了できます。使われている規格がFeliCaなのも重要なポイントです。
Suicaが2001年、おサイフケータイが2004年に生まれ、長い歴史を持っていたソニーの技術が、一周回って一番便利なところに帰着した印象があります。人間は一度便利なものを味わうと、戻れなくなります。非接触ICカードの通信規格であるNFCの「タイプF」を採用しているため、速度も早く、UX上優れた決済手段でした。

Apple Pay