企業のサイバーセキュリティについては、とかく「防御」ばかりに話が集中しがちだが、「サイバー攻撃者を見極める能力を磨け」とのメッセージを耳にした。2016年最後の本コラムはこのメッセージをもの申す一言としたい。
パロアルトネットワークスがセキュリティ指南書を無償配布
会見に臨むパロアルトネットワークスの齋藤ウィリアム浩幸副会長
セキュリティ指南書を手にしたパロアルトネットワークスの松原実穂子CSO
パロアルトネットワークスが先ごろ、 「マネジメントのためのサイバーセキュリティ」と題したセキュリティ指南書を制作し、無償で配布すると発表した。米Palo Alto Networksが2015年に制作して無償配布したセキュリティ指南書が好評だったことから、同社の各国現地法人でもローカル版を制作する運びになったという。
日本版は、日本法人の齋藤ウィリアム浩幸副会長と松原実穂子CSO(最高セキュリティ責任者)が中心となって制作し、米国版から一部コンテンツを収録するとともに、外部のセキュリティ専門家10人が執筆に携わった。内容は「サイバーセキュリティの現状」「企業経営とサイバーセキュリティ」「ベストプラクティス設計」「サイバー・リスク・マネジメントにおける投資判断」「サイバーリスクと従業員教育」などの章からなり、A5判で300ページに及ぶ。PDF版も【ダウンロードページ】から入手できる。
発表会見では、齋藤氏、松原氏とともに、執筆に携わったサイバーディフェンス研究所の名和利男専務理事・上級分析官、NTTの横浜信一特別参与、日本経済団体連合会の梶浦敏範サイバーセキュリティに関する懇談会座長も登壇。それぞれ執筆した内容について説明した。齋藤氏と松原氏は会見で、「サイバーセキュリティ対策は経営課題であることをこの書籍で訴求したい」と強調した。
どうすれば攻撃者を見極める能力を磨けるのか
会見に臨むサイバーディフェンス研究所の名和利男専務理事・上級分析官
この会見で特に印象深かったのが、「企業はサイバー攻撃者を見極める能力を磨け」と訴えた名和氏の話だ。同氏は航空自衛隊出身で、国の安全保障と企業のサイバーセキュリティの双方に精通したエキスパートである。
同氏は、脅威分析から得られた攻撃者像として、図1のように5つのパターンを示した。このうち、上から3つは国家レベルの脅威、下の2つは私たちも日頃直面している脅威だという。特に下から2つ目の「不特定多数あるいは特定の相手から経済的利得を得る」脅威として最近急増しているのが、ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)である。
(図1)脅威分析から得られた攻撃者像(出典:名和氏の資料)
同氏はまた、攻撃側と防御側の能力を比較した図2も示した。防御側は企業が設置するCSIRTを想定したものだ。図2で興味深いのは、双方の能力は正反対の内容ながらも互角であるということだ。だからこそ、防御側は防御一辺倒ではなく、攻撃者を見極める能力を磨いて的確な対策を講じる必要がある、というのが同氏の主張だ。
(図2)攻撃側と防御側の能力の比較(出典:名和氏の資料)
果たして、日本企業は攻撃者を見極める能力を磨いているのか。会見の質疑応答で聞いてみると、名和氏は「これまで痛い目に遭った企業は着実に取り組みを始めている。ただ、痛い目に遭っても時が経てばその痛みを忘れてしまい、再び同じ痛い目に遭っている企業も見受けられる」と答えた。
では、どうすれば攻撃者を見極める能力を磨くことができるのか。同氏は「まず企業として経営者をはじめ社員全員が強い危機意識を持ち、セキュリティ対策の専門組織を設けて必要な人材を配置しなければならない。そして公開されているものも合わせてセキュリティ情報を収集して分析し、攻撃者の動きを把握して予測する。それを継続して見極める能力を高めていくことが重要だ」と語った。
攻撃者を見極める能力を磨いても、攻撃者を特定することは難しいかもしれない。ただ、企業としてそうした取り組みを積極的かつ継続して行っていれば、攻撃に対する“抑止力”になるのではないか。名和氏の話を聞いていてそう感じた。セキュリティ指南書には同氏の話の詳細についても記されているので、ぜひ目を通してみていただきたい。