藤本恭史「もっと気楽にFinTech」

海外では生活インフラ化しつつある「P2P送金」--その可能性とは - (page 2)

藤本恭史

2017-01-06 07:00

 世界に目を向けてみると、P2P Paymentは頻繁に利用されており、最も人気のあるFinTechサービスの1つです。PayPalでは世界各国でP2Pサービスを展開しており、その1つであるVenmo(後ほど詳しくご紹介します)は、米国の若い世代を中心に広く普及しています。また中国ではWeChat(微信)などが日常生活で幅広く利用されています。

 こういった世界のサービスは、銀行口座登録などは必要ですが、日本国内で必要になる詳細な事前の本人確認プロセスを必要としていません。それは金融を規制する法体系の考え方が日本とグローバルでは異なるためです。

 前述の国内の犯収法では、取引開始時に本人確認を求めたり、また取引金額が10万円を超える場合に本人確認を求めたりと、入口でマネーロンダリングなどの不正を回避するための措置が取られています。それに対して、例えば米国では法規制を最小限にしてビジネスを阻害しない方法で整備をすることが原則になっており、簡単にいうと取引前でなく取引開始後にリスクをウォッチし、リスクの高低により必要に応じて本人確認を行うというアプローチが取られています。

 結果として、低額取引が主体のリスクの小さいP2P Paymentでは利用のための障壁が低くなり、広く普及が進みました。加えて銀行などの既存の送金サービスや送金手段と比べて、P2P Paymentを利用すれば簡単で手数料を低く抑えることができるというFinTechならではの利点ももちろん普及の要因です。今後急速に進化していくであろうFinTechサービスに日本の法体系がどう対応していけるのか。更なる法整備が待たれるところです。

 すでに世界ではP2P Paymentは広く普及し、大変便利なサービスとして多くの人の日常生活に浸透しています。では実際にどのような使われ方をしているのか、いくつか紹介します。

中国文化に溶け込んでいるWeChat Payment

 私が上海に出張に行った際に、上海の同僚とランチをしたときのことです。せっかく日本から来たのだからと、割とトラディッショナルな上海料理の店に行ったのですが、お会計では、同僚の1人がスマートフォンで支払いを済ませました。そのあとその他の人たちもスマートフォンを取り出し、何やら話しながら操作しています。そして支払いが完了した、とレストランを後にしました。

 さて、支払いに何の作業をしていたかというと、まず代表者がレストランの代金を一括でWeChat Paymentで払います。昔からありそうなローカルレストランで支払えることが驚きですが、当然現金のやり取りがなくとても支払い処理がスムーズです(そしてご年配のお店の従業員も平然とWeChatでの支払いを受け付けますので、それも驚きです)。その後、一緒のテーブルについていた同僚全員がWeChatで割り勘をし、支払ってくれた代表者にお金を送金したのです。日本によくありがちな小銭がないから後で払うといった貸し借りは発生せず、これまたとてもスマートです(そして私はWeChatアプリ使ってないだろうからおごるよと言われました。ラッキーです)。

 日本に住んでいるとWeChat Paymentはなかなか馴染みがなく、「中国人向け訪日インバウンド対応に店舗が導入を決定」なんてニュースを目にするぐらいだと思います。しかし、中国においては日常インフラ化するほど浸透しているといっても過言ではないのです。WeChatの中国国内での月間アクティブユーザー数は8億人以上、そのWeChatの決済機能としてのWeChat Paymentですから、普段使い慣れているコミュニケーションツールの延長としてシームレスに決済機能を提供していることが大きな強みです。

 上記の例はお店での支払いと友人間での割り勘についてですが、WeChatがさらに先進的なのは、そのお店のクーポンを入手したり、WeChatでその経験を投稿して友人にシェアしたりと、おおよそ必要な機能、サービスが1つのアプリに集約されていることです。また驚いたのは、中国には新年などに紅包というご祝儀とかお年玉を渡す習慣があるそうなのですが、この紅包の機能もWeChatには組み込まれており、既存の習慣であるお年玉、ご祝儀の習慣をデジタル化するとともに、それを発展させて宝くじのように活用するイベントもあるそうです。

 ランチを共にした中国の東北地方出身の同僚は、「里帰りの時にこの紅包の準備が大変だったけど、今はWeChatでできるからとても簡単」と言っていました。中国発のサービスとあって、中国の人々の生活レベルで問題点や利便性を追求してサービスを組み上げていった素晴らしいケースであると言えるでしょう。


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