iPhoneは詰まるところ、モバイル機器に対する企業の見方を根本から変えた製品だ。当時、RIMのモバイル機器によって普及していた電子メールやプッシュ型通知だけでなく、手のひらに収まる機器を通じたデータの取り扱いや従業員の作業支援が可能になるという新たな世界が突如として開けたのだ。
より興味深いことに、Appleはそれまで法人市場にほとんど興味を示していなかった。実際のところ、同市場に対するAppleの野心は、現在の最高経営責任者(CEO)であるTim Cook氏が法人顧客の獲得に力を注いでいるとはいえ、いまだにかなり控えめだと言ってもよいだろう。
企業の間でiPhoneの普及が進むまでに数年を要した。iPhoneはセキュリティや、企業向けアプリとの統合、「Microsoft Office」の利用、「Microsoft Exchange」のツールといった点で懸念があると見られていた。CEOが使いたいと言わない限り、最高情報責任者(CIO)はことあるごとにiPhoneに対する不満を口にするというのが一般的な風潮だった。
iPhoneが企業におけるモバイル機器という考え方を根本から変えたのは間違いないが、より重要なのはおそらく、Appleが企業におけるIT配備手法に変革をもたらす動きに火をつけたという点だ。そしてBYODの時代が到来する。
BYOD
Appleの製品はここ10年の間で、企業におけるデファクトスタンダードとなった。その主な要因は、従業員個人が使用しているデバイスを職場に持ち込む(Bring Your Own Device:BYOD)という流れが顕著になった点にある。iPhoneを購入した従業員がそれを職場でも使用するようになったのだ。また、CEOらもiPhoneを使いたいと考えるようになった。
ここで、企業のIT部門が「BlackBerry」を、また一部ではWindows Mobile端末を支給していたことが摩擦の種となった。しかしIT部門は最終的に折れざるを得ず、iPhoneの使用を認めるようになった。IT部門はいずれにせよiPhoneをサポートしなければならなかったため、それ以外の道は閉ざされていたとも言える。
Apple製品がBYODの波に乗って法人市場に普及した結果、「Mac」の採用も進んだ。また、BYODによって企業が管理面で頭痛の種を抱えるようになった一方、企業向けソフトウェアベンダーはインターフェースの改善を迫られるようになった。さらにBYODが引き起こした波により、開発者らは「Amazon Web Services」(AWS)を仕事で利用するようにもなった。その結果、従業員と業務リーダーらがITまわりの予算に関する権限を行使する時代が突如として幕を開けた。
iPhoneによってBYODが加速されていなければ、米国の産業界にGoogleやBox、AWS、Salesforce.comといった数多くの企業が存在していないかもしれない。従業員個人が使用しているあらゆるものを職場に持ち込む(Bring Your Own Everything:BYOE)という流れはiPhoneに端を発しているのだ。