「Human Brain Project」(HBP)というプロジェクトがある。テクノロジで脳をシミュレートし、その働きを理解することを目指す、野心にあふれた取り組みだ。これは人間の意識の本質を理解するうえで役立つのだろうか。

「人間の脳を理解するというのは、21世紀の科学が直面している大きなチャレンジの1つだ」
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脳は、現存するコンピュータのなかで最もエネルギー効率が高く、最も優れたものの1つだが、最も理解が遅れているものの1つでもある。
脳は、5つの感覚器官からの複雑なデータを処理し、世界を三次元空間として把握し、自らの経験を反映することができるシステムだ。この脳の働きを理解するために、独自の脳をコンピュータ上に作り上げようとしている野心的なプロジェクト、それがHBPだ。
このプロジェクトは、テクノロジを通じて脳の生態学的な理解を深めるという目的で2013年に開始され、10年間の活動期間に対して10億ユーロを超える資金が確保されている。
同プロジェクトの立ち上げに先立って欧州委員会(EC)向けに作成されたレポートには、「人間の脳を理解するというのは、21世紀の科学が直面している大きなチャレンジの1つだ。このチャレンジにうまく立ち向かえれば、人間であることの意味についての重要な洞察を得たり、脳の病気を治療する新たな方法を開発したり、画期的な情報技術や伝達技術を生み出すことができる」と記されている。
HBPは欧州のイノベーションや成長、労働市場の将来性を高めるとともに、欧州大陸が直面している大きな社会的問題のいくつかを解決するという目標を掲げている。
HBPの科学研究責任者である神経科学者のKatrin Amunts氏は米ZDNetに対して、「とても革新的だがリスクも高い極めて大規模なプロジェクトに対して、手厚い支援と、10年という長い資金供与期間を約束するというのが根本にあった考えだ。こういった考え方は欧州では前例がなかった。欧州では資金供与は3〜5年であり、その後は第2ラウンドにいく場合もあるというのが一般的だ。このため、10年という期間のプロジェクトは画期的だった。これは心躍ることだった。そのような長い期間を与えられている場合、研究で浮上してきたまったく異なる疑問にも取り組めるようになる。このような期間の長さは、どのようなものごとに取り組めるか、そしてどこまで難しい目標を設定できるかという点で、展望を大きく広げた」と語っている。