これは、HBPが極めて野心的になり、10年という期間が終了するまでに実際に機能する脳のシミュレーションを実現する取り組みを続けていけることを意味している。こうしたシミュレーションが実現できれば、科学的にまだ完全には明らかにされていない脳の働きを解明できると期待されている。
Amunts氏は「脳を理解するうえで重要かつ中核となるのは、脳が分子レベルから神経細胞レベル、神経回路レベル、神経ネットワークレベル、器官全体に至るまでのさまざまな空間規模で組織化されているという点であり、われわれは各レベルで実験と理論化、モデル化によるシミュレーションという創造性に富んだループを生み出そうとしている。またわれわれは実証実験に基づいてシミュレーションの溝を埋めるとともに、結果を検証しようとしている。シミュレーションは必要不可欠なツールだが、われわれの目的は脳のシミュレーションではなく、脳の仕組みの解明だ。それによって脳というものを理解するのが目的なのだ」とも述べている。
HBPは12のサブプロジェクトで構成されており、それらは科学的な研究を通じて神経科学分野の理解を深めようとする5つのサブプロジェクトと、テクノロジを通じて同じ目的を達成しようとする6つのサブプロジェクトに分類される(残る1つはサブプロジェクト間の調整役を担っている)。そして、HBPのテクノロジ側のサブプロジェクトには、脳神経科学と情報科学を融合したニューロインフォマティクスや、高性能コンピューティング(HPC)、脳神経回路を模倣するニューロモーフィックコンピューティング、ニューロロボティクスが含まれている。
HBPの10年というプロジェクト期間はテクノロジという観点から見るとかなり長いものと言える。10年前には「iPhone」はまだ発売されておらず、ベストセラー携帯電話はNokiaのキャンディバー型携帯だった。同プロジェクトは技術系企業と連携し、将来的な要求に確実に応えられるよう、発売間近の製品群を使用する。Amunts氏は、「スーパーコンピューティング業界では、関係者らはこのような長期的な視点でものごとを考えるのに慣れている。彼らはプロセッサがどこまで高速化されるのか、何ペタFLOPSを実現できるのかについて把握しているため、現時点で5年先、あるいは7年先までの非常に明確なスケジュールを用意している。われわれは、人間の脳全体を細胞単位のきめ細かさで表現するために必要となる空間やメモリの量を見積もれるのだ」と述べている。
このプロジェクトの研究は、CrayとIntelがそれぞれ提供した合計2台のプロトタイプのスーパーコンピューティングシステムに基づくHPCインフラに支えられている。同氏は「これらはまだ市場に投入されていない新システムであり、新たなテクノロジが採用されている。われわれは、これら企業と協力し、将来における脳の研究やシミュレーション、データアナリティクスなどに利用できる未来のスーパーコンピュータを開発したいと考えたのだ」と付け加えている。
ECによると、HBPを立ち上げた最初の3年間は苦難の連続だったが、現在は「軌道に乗りつつある」という。その立ち上げ段階は終了し、今は運用段階に入りつつある。