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映画を変革するCG技術(前編)--心配性のバットマン - (page 3)

稲田豊史

2017-01-28 07:00

 1997年に公開されて世界的大ヒットを記録した映画「タイタニック」は、当時の最先端VFX技術博覧会とも言われたが、なかでも筆者が特に驚いたシーンがある。

 いよいよタイタニック号が沈没という時、ビルのごとく縦向きになった巨大な船体を上から見下ろすシーン。ここでは、ほぼ垂直になった甲板を、何人もの人間が「甲板上の物体に引っかかりながら」落下していく。さながら、釘にひっかかりながら落ちていくパチンコ玉のように。当時はこれをスタントマンだと思いこんでいたが、実はCGだったのだ。


タイタニック」 Amazonから引用

 当時、筆者は映画配給会社に勤務していることもあり、普通の人に比べればCGと実写の区別くらいつけられるという自負もあった。が、「あんなに激しく落ちて、スタントマンはけがをしなかったのかな……」などと、見事に騙されてしまった。他の多くの観客も、そうだったに違いない。

 このシーンの意図は、主人公とヒロインもあんなふうに落ちていったら大変だ! と観客に思わせること。その意味で、「CGと気づかせないCG」はしっかり役目を果たしている。ヒーローの華麗なアクションを描くだけが人物CGの役目ではないということを、この世界的大ヒット映画はありありと示したのである。

 ただ、「タイタニック」はスペクタクル映画の側面も大きく、VFX(≒CG)がふんだんに使われているであろうことは、見る前から予想がついた。しかし、ドラマやラブコメであってもCGが使われ始めたのが90年代だ。

 アカデミー賞各賞を受賞したトム・ハンクス主演の「フォレスト・ガンプ/一期一会」(1994年)には、ハンクス演じるフォレストが神業的な卓球壁打ちを行っているシーンがある。どこからどう見てもハンクスが打っているように見えるし、壁打ち中に上官に呼び止められたハンクスが、打ち返したボールをキャッチしてラケットともに手元に置くシーンが途切れなくつながっているので、「トム・ハンクス、どれだけ練習したんだよ!」と感心したものだ。しかし、これもCGと知った時の衝撃は大きかった。

 こんな「衝撃」もある。ブラッド・ピット主演の「ジョー・ブラックによろしく」(1997年)だ。本作はラブストーリーなのでCGとは無縁に思える。が、ヒロインと別れて車道を渡るブラピが、車にはねられそうになり、一度は避けるが、その後別の車にはねられて人形のように派手に吹っ飛ぶシーンがある。

 これもすべて1カット、つなぎ目のない一連のシーンであり、筆者も含む観客は「あの人(スタントマン?)あんなに吹っ飛んで大丈夫!?」と度肝を抜かれたものである。「ジョー・ブラックによろしく」「交通事故」の単語で動画検索すると上位にヒットするので、ぜひ見ていただきたい。

 ただし、いずれのCGも、「歩くCGバットマン」のような物議は醸さなかった。これらのCGが果たした役割は、S級スタントマンや、プロ卓球選手の代わりであって、著名俳優の芝居そのものではないからだ。トム・ハンクスは卓球の上手さによってアカデミー主演男優賞を獲ったわけではない。CGはまだ「聖域」を侵していなかった。

 ところが、ここ数年の映画界は、なし崩し的に「聖域」を侵しはじめている。後編では「ターミネーター: 新起動/ジェニシス」(2015年)、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(2016年)における、「聖域侵食」について考えたい。

  • 脚注
  • 【*】CGではないVFXの代表的なものとしては、ブルーバックの前で演技をする俳優を任意の背景と合成する「アナログ光学合成」などが挙げられる

稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。
著書に『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。
手がけた書籍は『ヤンキー経済消費の主役・新保守層の正体』(原田曜平・著/幻冬舎)構成、『パリピ経済パーティーピープルが市場を動かす』(原田曜平・著/新潮社)構成、評論誌『PLANETSVol.9』(第二次惑星開発委員会)共同編集、『あまちゃんメモリーズ』(文芸春秋)共同編集、『ヤンキーマンガガイドブック』(DUBOOKS)企画・編集、『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)編集など。
「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆中。(詳細

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