無線通信による工場IoT化技術を検証--NICT、NEC、富士通ら

NO BUDGET 2017年01月29日 07時00分

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 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)および、オムロン、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、NEC、NEC通信システム、富士通、富士通関西中部ネットテック(富士通KCN)、サンリツオートメイション、村田機械は1月17日、製造現場でのIoT化を推進するため実施してきた無線通信技術の基礎評価および検証の結果について発表し、複数の無線システムを協調制御して安定化するための無線通信のソフトウェア構成を提案した。


NICTと共同実験各社が複数の稼働中の工場で行った無線環境評価、無線通信実験の様子。使用している周波数は920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯、60GHz帯

 製造現場のIoT化においては、ネットワークにつながるセンサなどを導入する際には、配線コストや配置換えに伴う作業やコスト負担を避けたいという考えから、無線通信のニーズが高まっている。一方、さまざまな無線システムが工場内で混在することになると、干渉による通信の不安定化や、設備稼働への影響も懸念される。この課題に取り組むため、NICTおよび共同実験各社は2015年6月にNICT主導の多種無線通信実験プロジェクト「Flexible Factory Project」を立ち上げ、ユーザーとなる工場などの協力関係も広げつつ、業界の垣根を越えて複数の稼働中の工場で、1年あまりの期間をかけて無線通信技術の基礎評価および検証に取り組んできた。

 なお、本プロジェクトでは、複数の通信方式や周波数にまたがる統合分析と全体の取りまとめをNICTが、実験設計をATRが、通信メーカーとして通信機器への実装を想定した評価をNEC、NEC通信システム、富士通、富士通KCNが、機器メーカーとして実際の利活用を想定した評価をオムロン、サンリツ、村田機械が担当している。


工場で実施した無線環境評価。工場の規模、住宅地が隣接する立地か否か、工場内の大型遮蔽物の有無、設備ノイズの有無、無線化発展段階(Unwire Stage)の属性によって分類したもの

 このプロジェクトでは、ユーザー企業である三菱重工工作機械の本社・栗東工場内やトヨタ自動車の堤工場および高岡工場内にて、共同実験各社が持ち込んだ音、振動、温度、湿度、電流波形などの情報を取得するセンサを生産設備に取り付け、複数のセンサから取得した多様な情報を無線で送信する評価実験を実施した。無線通信の現場の課題事例を利用空間と時間にわたって詳細に確認した結果、工場内でさまざまな無線システムが混在することによって無線通信が不安定化するリスクがあり、無線資源が有効に活用されていない実態が分かってきたという。

  • 短期間で急速に無線設備の導入が進んでいるという現状
  • 設備ごとに無線設備が導入されており、工場全体での無線設備を協調させた制御や管理が必要
  • 大型モーターから発生するノイズが無線周波数帯に及んでいる
  • 工場にある大型設備による遮蔽によって無線の通信品質が悪化する
  • 複数の設備が同時に動くラインでは、通信の衝突を避けるメカニズムにより、送信待ち時間が長くなり、受け手がデータを受信できるまでに時間がかかる

 また同時に、業種の異なる複数の工場からヒアリングを実施し、現在あるいは近い将来、工場、工場附帯施設、物流倉庫で用いられる無線用途を、「品質、制御、管理、表示、安全、その他」のカテゴリに分けて抽出し、無線用途別に通信要件を整理している。この通信要件は、今後、製造現場に設置される複合的な無線システムの動作シミュレーション、設計、不安定化のリスク評価、ガイドライン作成などに用いることが可能という。


工場における無線用途、通信要件と無線周波数/無線規格の関係。工場では、データサイズ、データ生成頻度、ノード数などがシステムごとにまちまちであり、それぞれに求められる機能によって、利用される無線周波数や無線規格が異なる

制御、品質、管理、表示、安全のカテゴリ別で示した無線用途における許容遅延時間。工場で用いる無線用途には、制御や安全にかかわる許容遅延時間が短い(100ミリ秒以下)ものと、許容遅延時間が長い(100ミリ秒以上)ものなどがあるが、10ミリ秒〜10秒の許容遅延が求められるアプリケーションが多く、このプロジェクトで目指す最初のターゲットは、この範囲にあるアプリケーションである。

 Flexible Factory Projectではこれらを受け、実際の製造現場で必要とされる具体的な利用シーンを想定し、設備ごとに独立した無線システムを協調制御により安定化するためのソフトウェア構成を、無線アーキテクチャとして提案した。この無線アーキテクチャは、工場の生産設備の無線化に当たって無線の非専門家がシステム設計を行うことを想定しており、無線用途別の通信要件は「製造現場における無線ユースケースと通信要件」として、2017年3月に公開予定。具体的な特徴は以下の通り。

  • 920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯、60GHz帯の周波数を対象
  • これまでの実験で明らかになった工場ごとの無線環境の違いと、実際に使われる無線用途別の通信要件を踏まえて設計
  • アプリケーションソフトウェア側の情報のやり取り手法を統一することにより、物理層によらず制御を可能にした

無線安定化技術による通信状況の改善イメージ。既存のアプリケーション(既設の自動搬送システムやセンサーシステム、無線型トルクレンチを用いた組立システムなど)は、それぞれが独自の周波数、タイミングで通信を行うため、互いに干渉し、通信品質の劣化が発生する。アプリケーション内、アプリケーション間で通信の交通整理を行うことで、干渉による通信品質の劣化を抑制し、アプリケーションや製造現場の装置の安定稼動を目指す。

無線安定化技術で用いられる情報のやり取りを実現するソフトウェア構成。アプリケーションソフトウェア側の情報のやり取り手法を統一することにより、物理層によらず制御を可能にするためのもので、既存アプリケーションに関しては機能追加することが可能になるよう、調査に基づく6つ(制御、品質、管理、表示、安全、その他)のカテゴリに分類に基づき要求仕様を定義した。今回追加したソフトウェア構成部は、アプリケーション データ流抽象化機能、無線環境監視機能、無線通信経路選択機能を有し、既存の無線通信規格/標準に準拠することが可能。また将来、カテゴリ内のアプリケーションや新しいカテゴリを追加する場合は、共通のやり取りの手法に個別に必要となる機能を追加定義することで拡張可能という。

 NICTおよび共同実験各社は今後、ユーザーと通信・機械・システムの専門家とともに、個々に所有するセンサ、IoT、無線通信、セキュリティー、クラウド、AIなどの技術と今回得た知見を活用し、無線通信に求められる機能要件の明確化を通して、製造現場におけるリアルな工場内無線通信の課題を解決するソリューションを提案していく方針。

 さらにFlexible Factory Projectでは、生産性向上を目的に無線接続するデバイスの導入加速が見込まれる製造工場において、無線通信の利活用を促進するため、複数の無線システムを協調制御して安定化する技術の確立と標準化を目指す。

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