ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』の中に「永遠の相のもとに世界を捉えるとは、世界を全体として―限界づけられた全体として―捉えることにほかならない」という言葉があるけれども、いま、私たちが「truth」と考えるものは結局のところ「限界づけられた全体」の中でのみ有効性を持つものでしかない。
ニーチェの『悦ばしき知識』(ちくま学芸文庫)。『権力への意志』と同様、アフォリズム形式で綴られている。今年に入って講談社学術文庫からも『愉しい学問』として新訳が出版されている(画像提供:Amazon.co.jp)
最後に私たちが世界をどのように認識し、その中で起こる事柄をどのように把握し、真実と思われるものに共鳴し、虚偽と思われるものに反発しているのか……。ニーチェの『悦ばしき知識』(ちくま学芸文庫)に収められた示唆に富んだ一節を引用して本稿を締め括ろうと思う。
「自然を忠実に、完璧に!」ーーどんな具合に彼は始めるか、
自然が絵の中に収めつくされる日がいつかあるだろうか?
世界の極微の一片すらも無限である!ーー
彼は結局自分が気に入ったものを絵に描く。
では、彼の気に入るもの何か?彼が描くことのできるもの!
- 高橋幸治
- 編集者/文筆家/メディアプランナー/クリエイティブディレクター。1968年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年までMacとクリエイティブカルチャーをテーマとした異色のPC誌「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに主にデジタルメディアの編集長/クリエイティブディレクター/メディアプランナーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部美術・デザイン学科にて非常勤講師もつとめる。「エディターシップの可能性」を探求するセミナー「Editors' Lounge」主宰。著書に「メディア、編集、テクノロジー」(クロスメディア・バブリッシング刊)がある。